「組織の生存戦略としてのリスキリング」でリーダーに求められる資質とは
個人としてキャリアの可能性を広げるために慣れ親しんだ分野から離れた新たなスキルを習得すること、企業としては変化の激しい時代への対応のために、その時々で必要となるスキルを従業員に身につけてもらうことの重要性が指摘されるようになっている。いわゆる「リスキリング」である。
2019年に日本IBM社が発表した調査報告では、リスキリングはこのように定義されている。
市場ニーズに適合するため、保有している専門性に、新しい取り組みにも順応できるスキルを意図的に獲得し、自身の専門性を太く、変化に対応できるようにする取り組みをリスキリング=Re-Skillingという。
一方で、リスキリングには課題も多い。個人としては、新しく何を身につけるかを決めるには明確なキャリアプランが必要だし、企業が従業員にリスキリングを促す場合も「何をどうすればいいかわからない」「DX人材を育てたいが、メンバーの変化を促すことが難しい」といったことでつまずきやすい。
『リスキリングが最強チームをつくる 組織をアップデートし続けるDX人材育成のすべて』(柿内秀賢著、ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)はリスキリングを巡る現状を紐解いたうえで、企業がリスキリングを実りあるものにするための方法や手順を説いていく。
■日本人は本当に「勤勉」なのか?
日本のリスキリングの課題として、そもそも日本人は業務外での学習に積極的ではないという事実がある。パーソル総合研究所が2019年に調査した「APAG(アジア太平洋地域)職業実態・成長意識調査」によると、業務以外に自主的な学びを行っている人の割合が日本は最下位。「日本人は長時間労働だから学ぶ時間がないのでは?」という疑問も浮かぶが、日本の週あたりの平均労働時間は39時間。こちらもアジア太平洋地域で最短だった。
「日本人は勤勉」というステレオタイプがあるが、こと仕事以外の時間の自己鍛錬では、とても「勤勉」とは言えないのだ。
ただし、これは必ずしも「日本人が怠け者」ということではない。というのも、日本では「学び」は必ずしも評価されていないからである。
たとえば、日本の新卒一括採用では、「実務経験はないがポテンシャルのある人材」が採用され、ポテンシャルを測るものさしとして長年「学歴」が重視されてきた。そして入社後は実務で評価され、転職市場でも「実務外の自主的な学び」は評価されず、学歴と実務で評価される。新卒採用でも社内評価でも転職でも、主体的な学びが評価の対象になっていない以上、いくらリスキリングを奨励しても真剣に取り組む人は限られてしまう。これが日本のリスキリングの問題点なのだ。
■「生存戦略としてのリスキリング」でリーダーに求められる資質とは
そんな環境でも、企業側は変化の激しい時代を生き抜くために、常に学び続け、進化しつづける必要がある。テクノロジーの進歩が著しい現代では、やはりテクノロジーにまつわる組織的能力を高めていくのが不可欠。その方法こそがリスキリングである。
組織におけるリスキリングを推進するためにカギになるのは現場のリーダーである。そして、新しいテクノロジーをいかに自分のチームに活用するかという点で、リーダーたちはマネジメントに対する考え方を変える必要があると、本書は指摘している。
「ChatGPTのような生成AIをいかに職場で活用するか」といったことを想像するとわかりやすいが、新しいテクノロジーはリーダー自身も未知であることが多い。そのため、リーダーたちには「知っていることを実行させるマネジメント」から「自分も未経験かつ学んだこともないことを、チームのメンバーと一緒に学び、実践していくマネジメント」への転換が求められるのである。
こうした考え方の転換したうえで、リスキリングを進めるリーダーに必要な行動と能力について、本書では
・テクノロジーへのアンテナと、仕事で活かそうとする行動力
・業務における課題の特定と、具体的な活用方法の設定
・学ぶべき内容の明確化と、学ぶプロセスの運用
・業務活用の促進と、成果に対する考察
の4つを挙げている。
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業界、業種、職種、業務内容もさまざまというなかで、リーダーたちは「自分のチームのリスキリングをどう進めればいいのか。本書では具体例を交えてその道筋を見せてくれる。
変化が速く、予想がつきにくい時代を組織が生き抜くためには、常に変わり続けることが求められる。「生存戦略としてのリスキリング」について網羅的に解説されている良書である。
(了)