利便性高くニーズが広がる「スマートホーム」 その実際と課題とは?
2020年に始まったコロナ禍以後、私たちの生活様式は大きく変化した。
コロナ禍当初は外出を控え、自宅で過ごすことを求められた。また、リモートワークが普及し、それに合わせて住宅内の住環境や通信環境などの整備を行ったという人も少なくないだろう。
そんな中で今、注目を集めるのが「スマートホーム」だ。
キー(鍵)レスを実現するスマートキーや、AIを搭載したスマートスピーカーなどが代表的な例だが、それ以外にも様々なものがあり、私たちの生活を快適に、便利にしてくれる。
ただし、興味があってもどのように導入したらいいのか分からないという人もいるだろう。
『鍵のいらない生活 スマートホームの教科書』(クロスメディア・パブリッシング刊)はそんな疑問に答えてくれるスマートホームの入門書だ。
今回は本書の著者で、スマートホーム化支援の事業を手掛ける三和テレム代表取締役の小白悟氏にスマートホームの利便性や課題についてお話をうかがった。
(新刊JP編集部)
■認知度は高いスマートホームだが、課題は「通信環境」
――近年注目を集めつつある「スマートホーム」についてお話をうかがっていきます。まずは「スマートホーム」と「スマートハウス」の違いからお聞かせください。
小白:まずは「スマートハウス」ですが、これはエネルギーに有効活用を主眼に置いた住宅のことです。省エネや畜エネといった機能を備えた、いわゆる「エコ住宅」ですね。一方の「スマートホーム」は、IoTを取り入れた住宅のことです。家の中にテクノロジーを導入して、私たちの暮らしを便利に、快適にしていくというもので、大きな違いがあるんです。
――アメリカでは「スマートホーム」の普及が進んでいるとされています。日本での普及は現在どの程度進んでいるのでしょうか。
小白:スマートホーム(IoT)家電情報サイト「BENRI LIFE」が先日発表した「スマートホーム家電の認知率・利用動向」の調査では、スマートホーム家電の認知率は73.6%に達していながらも、実際の利用経験がある方は10.9%に留まるという結果が出ていました。(*1)
海外では、特に欧米や韓国では住宅の半数がスマートホーム化されているとされていますが、日本ではまだそこまで普及していないというのが実情です。
ただ、確実に広がりは見えていて、東京オリンピックをきっかけに一段階変わった感じはあります。まだネットワーク環境の脆弱性など課題は多いのですが、これからそういった課題をクリアしていって広がっていくのではないかと考えています。
――ネットワーク環境で言うと、コロナ禍以後のリモートワークの普及なども環境整備の後押しになったのではないかと思いますが、その点についてはいかがでしょうか。
小白:そうですね。打ち合わせもZoomやGoogle MeetといったWeb会議ツールなどを使って自宅から参加するという機会が増えました。こうした社会の変化がスマートホーム化への後押しになっていることは事実だと思います。
また、コロナ禍以後というところで言うと、離れた場所に住む家族や友人とのコミュニケーションに対する通信環境整備の需要も高まりました。特に家から出られないご年配の方が、お孫さんの顔を見るためにスマートフォンやタブレット、パソコンを使うことが多くなったと思います。
その一方で住宅の中の通信環境が悪く、インターネットにつながりにくいといった声もありました。それはスマートホーム化を進める上でも大きな課題となる点ですね。
――小白さんが代表取締役を務めている三和テレムでは、スマートホーム導入の事業を手掛けていますが、どのような経緯でこの事業を始められたのでしょうか?
小白:これは二点あります。まず、三和テレムは主に情報通信工事を手掛けている会社なのですが、ここ10年ほどWi-Fi通信環境整備のニーズの高まりを強く感じていました。さらに新型コロナウイルスの感染拡大の影響によって、自宅の通信環境を整えなければいけない人が増えたこともあり、そこからビジネスモデルが確立していきました。
もう一点は、私自身が不動産のオーナーをしているのですが、不動産の新しい付加価値としてのスマートホームの可能性を考えたことです。少し前で言うと、ドアホンやオートロックが不動産の強い付加価値となっていた時代がありました。どちらも今では広く普及していますが、スマートホーム対応も新しい付加価値として期待できるものです。実際に結果も出てきていて、本の中でも書かせていただきました。
――スマートホーム化のニーズの高まりを感じられていたわけですね。
小白:そうですね。それに自分の親を介護した経験や、自分の不動産に入居している高齢者が熱中症で亡くなったという経験からも、IoTで介護の負担が軽減や、見守りでの気づきの機会が増えるなど有効性が高いので住宅へのIoT導入の必要性を強く感じていました。スマートホーム化は難しいものではないので、そうであればこれはすぐに対応すべきだろうと。
――高齢者向けの住宅のスマートホーム化のニーズは高いと思います。
小白:そうだと思います。温度管理や湿度管理が自動でできたり、ネットワークカメラや転倒検知センサー、動体センサーなどを利用して緊急時に迅速に対応できる環境を整えることが必要でしょう。また、遠隔でご両親の安否を確認できることも大切なことです。
ただ、高齢者の方の場合、通信環境が整っていないことが多く、その点はこれからクリアしていかなければいけませんし、スマートホームと言うとすごく難しく捉えられてしまうこともあります。ただ、細かいことは分からなくても、いかに生活が便利になるかを理解していただくことが大切ではないかと思います。
――小白さんがお考えになるスマートホーム化のメリットを教えてください。
小白:個人の生活としては便利になる。これが第一です。また、先ほど不動産について触れさせていただきましたが、不動産のオーナーにとっては物件の新たな付加価値になります。ただし、費用対効果が悪ければ導入はしないでしょう。その点についても、以前と比べると電子機器が安価になっていますし、通信環境も整ってきているので、今のタイミングが導入にちょうど良いように思います。これが10年前であれば見向きもされなかったでしょうね。
(後編に続く)
【参考ウェブサイト】
*1…【スマートホーム家電の認知率・利用動向】10,488人アンケート調査|日本のスマートホーム市場の動向レポートを発行(BENRI LIFE)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000113195.html