この世のほとんどは「悪人」難解だけど優しい浄土真宗の教え
社会生活には悩みがつきもの。人間関係の悩み、お金の悩み、健康の悩みなどなど、一つの悩みもない人はいないはず。それは大昔も今も変わらない。
そんな苦しむ人間に普遍的な教えを授けてくれるのが仏教だ。『日々抱える苦労の救済処置 おすくいぶっきょう』(幻冬舎刊)は、女子高生の華と僧侶の凡ちゃんの会話を通じて、仏教の教えをわかりやすく解説するコミック。
今回は著者の世良風那さんに、現代において仏教に触れることの意味についてお話をうかがった。
■誤解されやすい?浄土真宗の「悪人」
――『日々抱える苦労の救済処置 おすくいぶっきょう』(幻冬舎刊)は、女子高生の華と僧侶の凡ちゃんの会話を通じて仏教(浄土真宗)の教えを伝える一冊です。まず、今回の本を書いた動機や問題意識について教えていただければと思います。
世良:これは3つありまして、1つは浄土真宗の教えが少し難解で誤解されやすい、漫画を通じてわかりやすく伝えたかったことです。
2つ目は、私自身が生きていきたなかで人間関係のトラブルを経験したり、自分の子どもたちが学校でいじめに遭ったりしたんですね。同じように人間関係で苦しんでいる人は日本中にたくさんいるはずで、そういった人を仏教の教えを用いてどうにか救いたいという気持ちもありました。
3つ目は人生において生きる意味を見出せない方に対して、やはり仏教の教えを知ることで前向きに生きるきっかけになってくれたらと思って今回の本を書きました。
――浄土真宗の教えが難解だというお話がありましたが、どんな点が難解なのでしょうか。
世良:一つ言えるのは「悪人」の定義です。浄土真宗でいう「悪人」とは、いってみれば「凡人」のことなんですね。自力で修行をして悟りを開いた人が「善人」で、そうでない人、つまり阿弥陀様のお力で救っていただくしかない人が「悪人」ということになります。
――自力で悟りに行きつかないと「善人」になれないということだと、厳しい教えのように思えます。
世良:ハードルは高いかもしれませんね。ただ、聞く人によってはすごく優しい教えだとも言えます。悪いことをした人であっても阿弥陀様に救ってもらえるということでもありますから。そういう「善人・悪人」の部分が誤解されがちなんですよね。一般的な意味とはずいぶん違うんです。浄土真宗ではだいたいの人間は「悪人」ということになってしまうので。
――世良さんと仏教との出会いはどのようなものでしたか?
世良:実家が浄土真宗のお寺だったんです。といっても子どもの頃は仏教や浄土真宗について親から教わっていたわけではありません。
――ご両親は世良さんに仏教の教えを説いたりはしなかったのでしょうか?
世良:まったくなかったですね。学校も仏教ではなくてカトリック系の学校に進みましたし。ただ、それでもこんな環境ですから気にはなっていて、成長するにつれて自分がお寺に生まれた意味を考えるようになっていきました。その後独学で仏教を学んでいくにつれて、私がお寺に生まれたのは前世からの縁が続いているからだと考えるようになりました。
――仏教の八つの苦しみの箇所が面白かったです。これらの苦しみはどれも人生につきものだと言えます。仏教の教えによってこれらの苦しみから解放されることは可能なのでしょうか。また解放されることを目指すべきなのでしょうか。
世良:解放されるのは可能ですが、かなり難しいと思います。というのも、苦しみを手放す努力や訓練を自分でしていかないといけないからです。それにはまず仏教の教えに触れて、正しい見解や世界観を知る必要があります。
仏教には六道輪廻という教えがあって、人間は現世を去った後に、六道のうちのどれかに赴いて、そこから自分の魂のレベルを向上させるためにまた生まれ変わってくるとされています。現世で抱えている苦しみというのは、前世のカルマを解消させるためのプログラムの一つではないかと考えています。
――私たちの悩みの多くは人間関係にまつわるものです。たとえば嫌いな人と関わらなければいけないことに苦しんでいる人がいるとしたら、その苦しみをどう考えればいいのでしょうか。
世良:現世で憎い相手というのは、前世でも因縁があった可能性が高いです。嫌な人、憎い人が与えてくる苦しみをどう解放していけばいいのかというと3つあって、1つは自分にも悪いところがあると考えて、自分を見直すことで相手と話し合って和解する方法。
2つ目は完全に相手が悪い場合で、これはもう離れるか距離を置くしかない。ここで大事なのは、距離を置いたら相手への怒りを手放すことです。難しいかもしれませんが、いつまでも相手から受けた苦しみのことばかり考えていると自分自身を低い波動にとどめてしまうことになり、先に進めません。
3つ目は和解もできないし距離も置けない場合で、「相手はもしかすると前世での自分のカルマを解消するために、わざわざ自ら悪因をつくってまで悪役となり存在してくれているんじゃないか」と考えて、感謝することです。
――3つ目は難しそうです。
世良:もちろん難しいですよ。でも、自分も相手のカルマに対して何か持っているかもしれません。相手にばかり問題があるというところからそういう方向に考えを持っていくのが大切だと思います。
(後編に続く)