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【「本が好き!」レビュー】『絶縁』村田沙耶香、アルフィアン・サアット他著

提供: 本が好き!

アジア9都市9名の若い世代の作家が、「絶縁」をテーマに書いた短編小説を収録した日韓同時刊行のアンソロジー。 収録作品の多くは書きおろし作品で、訳者解説も充実した読み応えたっぷりの1冊だ。

「娘が将来『無』になりたいって言ってて、困ってるんです」

こんな書き出しで始まる巻頭作は、村田沙耶香「無」
若者を中心に流行する「無」。
スマホを手放し、家族や社会のしがらみを断ち切って「無街」暮らす人々。
けれどもその「無街」にもまた、別のしがらみがあるようで…。
これを読んだらあなたも思わず、東京タワーを見上げてしまうにちがいない。

シンガポールのマレー系作家アルフィアン・サアットが描くのは、「妻」(藤井光訳)。
マレー人の妻の視点から語られる物語は、家族が増える話ではあるがその“絶縁”ぶりは、読んでいて胸が苦しくなるほど。

大好きな郝景芳の「ポジティブレンガ」(大久保洋子訳)
ポジティブシティでは、その人の感情によって建物が色を変える。
常にポジティブに、常に明るい色でなければ……。
さすがは郝景芳、忘れがたい一作だ。

タイから参加するのは、ウィワット・ルートウィワットウォンサー「燃える」(福冨渉訳)。
激化する民主化運動とその傍らで希望と絶望、接続と絶縁を繰り返しながら、生きる人々の物語は何とも不思議な読み心地。

香港の作家、韓麗珠の「秘密警察」(及川茜訳)は、これまた二読、三読と、じっくり読みたい作品だ。

そしてまたこの本のために久々に筆をとったというチベットの作家ラシャムジャの「穴の中には雪蓮花が咲いている」(星泉訳)の素晴らしいことといったら!

ベトナムからはグエン・ゴック・トゥの「逃避」(野平宗弘訳)。
家族の「縁」から逃れることを望んできた母親の、死を目前にした回想がしんどい。
この作品は書き下ろしでなかったからだろうか、あとがきにかえてと断り書きのある作者による「縁の借り」というエッセイが添えられていて、こちらもしみじみとした読み応え。

台湾の作家連明偉の「シェリスおばさんのアフタヌーンティー」(及川茜訳)は、意表をついてセントルシアを舞台にした、少年たちの物語。
そういえばセントルシア、近々予定されている選挙で台湾との国交の是非も争点の一つと報道されていたっけ。

トリを務めるのは韓国の作家チョン・セランの「絶縁」(吉川凪訳)。
6人の放送作家に手を出したセクハラ男に下されるべき処罰をめぐって、その男と直接関係を持たない女性が思い巡らすあれこれ。 やっぱりチョン・セラン、人が心の中に抱くモヤモヤした気持ちを表現するのがすごく上手い。
決して気持ちのいい話ではないのに、読み終えた後、なんだか心が軽くなった。

タイトルからして楽しい話が詰まっているはずはなかったが、どの作品も読み応えたっぷりで、“絶縁と接続を繰り返しながら”明るくなったりどす黒くなったり、思わず自分の足元の色を確認したくなってしまうアンソロジーだった。

(レビュー:かもめ通信

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絶縁

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奇跡のアンソロジー、日韓同時刊行!

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