建設業界専門コンサルタントが指摘する建設業界の病理
長引くコロナ禍で苦境に立たされているとされる建設業界。
利益が出ずに苦しむ企業が多いなかで、外的要因ではなく「売上至上主義」「どんぶり勘定」「粉飾決算の横行」など業界内部の問題を鋭く指摘するのが建設業界専門コンサルタント・中西宏一氏だ。
なぜ、この業界は赤字体質・薄利体質が染みついているのか。そしてそこから抜け出す方策はあるのか。
建設業界をとりまく環境と問題点、改善策、そしてこの業界の未来について、中西氏の著書『赤字続きの会社がみるみる蘇る 建設業経営「利益最大化」の法則』(パノラボ刊)を踏まえつつお話をうかがった。
■業界専門コンサルタントが指摘する建設業界の病理
――『赤字続きの会社がみるみる蘇る 建設業経営「利益最大化」の法則』についてお話をうかがえればと思います。前著が出た当時と比べて中西さんのコンサルティング手法が変わり、よりシンプルになったとされていました。どのあたりが削ぎ落されたのでしょうか。
中西:今までは、その会社の社員の方全員と面談し、会社の現状を聞き、毎月訪問し会議に出て、自分が司会をして皆の意識を変えていく、という流れでコンサルティングしていました。
しかし結局、社員が思っていること、会社の問題点というのはどの会社も似通っていることが分かりました。よって、今は会社に行くこと、社員と会うこと、会議に出ることはほとんどしていません。そのぶん経営者の方に、その各社共通の問題点であり改善策を最初から伝えることに特化しています。そもそも将来のためにも、会社は経営者自身で動かした方がいいわけですから。
――「建設業の会社の利益をできるだけ簡単なやり方で改善する」が本書のテーマです。それだけこの業界が利益を出すのに苦しんでいるということで、本書の内容との重複になりますが、建設業の現状を教えていただきたいです。
中西:建設業界のありようはもう何十年も変わっていません。私の新卒時と比べても、30年以上経っていますが、そのありようはほとんど変わっていません。
世の中は進歩し、システムなども劇的に進化しましたが、建設業界においては、それを動かす「人」が変わっていないと感じています。業務の多くが「人」が中心になっているため、良くも悪くも変わらないままになっていたのです。
オリンピックが終わり、コロナもまだ続き、他業種が少なからず変わっていく中で、その「人」が変わっていない建設業界は非常に厳しい流れに突入してきています。2022年も楽ではない年でしたが、2023年以降はさらに厳しくなっていくのではないでしょうか。
――本書で指摘されている「どんぶり勘定」という建設業界の体質はなぜ変わらないのでしょうか。
中西:建設業界の会社の売上は、受注した各現場の完工高の合計です。各現場には「工期」があり、短いものでも1ヶ月、長いものだと2~3年の現場もある。その期間に「何とかなるだろう」という意識がどうしても出てくることが問題だと感じています。
つまりその期間がある限り、人は精神的な「猶予」を感じてしまう。工期があり、そこに猶予を感じる以上、建設業界の体質、そこにいる人達の意識は簡単には変わらないのではないでしょうか。
――また建設業界の利益率の低さの原因として多重下請構造のような構造問題が指摘されることがあります。この構造の下の方にいる会社ほど利益を出すのが難しいかと思いますが、本書で提唱されている手法で利益を改善することは可能なのでしょうか。
中西:建設業界の下請構造は、感覚的には少なくとも4層、多ければ7層ほどはあるはずです。普通に考えれば、下にいくほど利益は圧迫されるということになります。
よって本書では、その中でも「低利益の層」に入ることそのものを避けることを勧めています。仕事が欲しい、売上を上げたい、という意識だけではどうしてもその「低利益の層」に加わってしまう。そこで利益というものを得られないのであれば、その層などに入らず、他の層を探さなければなりません。
ただ、つけ加えるなら、かならずしも下の層に行くほどに利益が圧迫されるわけではありません。中間層であっても最下層であっても、自社の利益を確保する意識さえあれば、利益確保は十分にできます。層の最上部のみが赤字という構図も十分にあり得ますし、下層にいくほど利益が上がっているケースも数多くあります。極論言えば、どの層にいても本書の中に書いてある、「利益を上げる」という自社のスタンスを守りさえすればいいだけのことなのです。
(後編に続く)