部下の話を聞かない上司はNG!今必要とされる「傾聴力」とは
上から頭ごなしに指示をしていれば部下が動いてくれた時代は終わり。
これからは上司が部下一人ひとりに寄り添い、共感力を持って接すこと、それぞれの特性や長所を生かすマネジメントが必要になる。
そこで必須になるのが「傾聴力」である。ただ情報を得るだけでなく、相手との信頼関係構築に結ぶ話の聞き方とはどのようなものか。
『優れたリーダーは、なぜ「傾聴力」を磨くのか?: 職場の心理的安全性が高まる本』(三笠書房刊)の著者・林健太郎さんにお話をうかがった。
■社会が変わっても上司のコミュニケーション力が変わらないワケ
――本書は「傾聴力」とは何かという根本のところから、「傾聴力」の磨き方という実用的なところまでカバーされています。主にマネジメント層に向けた本ですが、林さんが今の上司のコミュニケーションに対して持っている問題意識についてお聞かせください。
林:社会環境がどんどん変わっている中で、コミュニケーションのやり方だけが旧態依然としているように感じています。「昭和型のリーダーシップ」のようなものがまだまだ残っていますし、上位者が下位者に上から何かを伝えるというコミュニケーションはたくさんあります。
今しきりに言われている「多様性」を担保していくためのコミュニケーションは開発されていないような気がしています。
――コミュニケーションのスタイルが変わっていかない理由はどんなところにあるのでしょうか。
林:「現状維持バイアス」があるのでしょうね。自分が部下の時に上司からされてきたやり方しか知らない人もいるでしょうし。
私自身もその世代なのですが、「何やってんだ!」とか「気合が足りないぞ」と怒鳴られながら、いわゆる「プル型」のコミュニケーションで育てられた人が上司になると、部下に対して同じようなコミュニケーションをしたくなるんだと思います。でも、それも今はパワハラ、モラハラと言われてしまいます。
――パワハラやモラハラはいけないということとは別に、旧来の上から頭ごなしに命令するようなコミュニケーションを変える必要がある理由はどんなところにあるのでしょうか。
林:ネット検索が簡単にできる環境になって、上司が持っている情報量を武器に威厳を保つことができなくなったというのは一つ言えると思います。
社会通念的にも、「結婚して子どもを作って家を買って定年まで勤める」というモデルがなくなってしまったので、そういう人参をぶら下げても部下は食いつかないですよね。そこで自ずとコミュニケーションを変える必要が出てきているのだと思います。
――林さんご自身も部下とのコミュニケーションで苦労されたそうですが、どのように変えていかれたのでしょうか?
林:たくさん失敗はしましたが、コーチングを学んだのが大きかったと思います。その過程で「言葉として表現されたことは、伝えたいことの1割か2割でしかない」ということを知ってから「言葉にされなかったこと」に好奇心を持てるようになったのが分岐点だったように思います。
――どんなところに注目するようになったのでしょうか?
林:たとえば、部下に「この仕事やっておいてくれない?」と頼んだとして、相手から「いいですよ」と返ってきたら、昔の私は「いいんだ、じゃあお願い」としか思わなかったのですが、声のトーンや「いいですよ」の間合いが変だったら「もしかしたら、あまりやりたくないのかな」とか想像するようにはなりました。もしかしたら違うことを考えているのかもしれない、と。
――「部下の話を聞く」のが上司の力量任せになってしまっている、というご意見はごもっともだと思いました。「聞くこと」は教えなくてもできる人はできる一方で、教えても人の話を聞くことができない人もいます。「傾聴力」は訓練によって身につけることができるものなのでしょうか。
林:情報を聞きとるということ自体はみんなやっていると思うのですが、相手との関係を育むための聴き方ができているか、というところですよね。
特にリーダーになるような人は自分で仕事をどんどんできてしまうので、部下とのコミュニケーションにかける時間は生産性が低いと捉えがちです。話を聞くくらいなら自分で仕事をこなしてしまった方が早いと考える人もいるでしょう。短期的にはそれは正しいのですが、中長期的に見ると、預かる部下が増えれば誰かに仕事を任せざるを得ない場面はどうしても出てくるじゃないですか。
――「自分がやった方が早い」には限界が来るということですね。
林:そうです。そうすると部下とコミュニケーションを取らざるを得ないわけですし、変えざるを得ない。その過程で部下との関係性を育むようなコミュニケーションを身につけていく方は多いです。だから後天的に身につけられるものだと考えています。本人にとってコミュニケーションの優先順位が上がるかどうか、という話なんです。
――色々な人との会話がある中で「部下との会話」に特有の難しさはありますか?
林:部下の側からすると上司というものは、仕事を教えてくれて、指示をくれる人というイメージを持っていますから、そのイメージをまず崩さないといけない難しさはありますよね。だから、上司がコミュニケーションのスタイルを変えて、部下の話を注意深く聴くようになると、関係性が一瞬不安定になるはずです。ただそれを習慣化していくことで、部下の方も慣れていきます。
――部下のことをできるだけ知っておくことは重要ですが、「どこまで踏み込んでいいか」で悩む上司は多いのではないかと思いました。例えば仕事を離れた私生活のことを上司はどこまで知っておくべきなのでしょうか。
林:こちらからはたらきかける時のコツというところで言うと、話したいことを話したい分量だけ話してもらえればいいよという姿勢を見せることですね。どこまで開示するかと言うのは相手によって違うわけで、開示する範囲は相手が決めるべきです。だから、こちらとしては「好きなだけ話していいよ」と言った時に教えてくれることが、上司が得られる情報だというアプローチが適切だと思います。
――性格や嗜好などパーソナルなことも、知っておくことで仕事に役立つことはありますよね。
林:そうですね。例えば「この前こんな話をしてくれたよね。それで言うと興味がありそうな仕事があるんだけど」というようなコミュニケーションができるようになります。そうすると相手によってモチベーションの個別化をすることができますから、上から押さえつけるように仕事を与えずに済むのではないかと思います。
――ひとりひとりの性格や嗜好を把握して、声がけも変えて、ということだと、上司の負担は大きそうですね。
林:それはおっしゃる通りで、今時の上司は負担が大きいと思います。軍隊型のチームを作る場合には全員に同じメッセージを打ち出せばいいのですが、共創型の組織を作りたい場合は、個々の能力を最大限発揮してもらうことを考えなければいけません。そうすると管理する側は個々人の強みや性質を把握する必要があるわけで、その意味では「部下の話を聴く」というのも上司の仕事の一つだと思います。
(後編に続く)