だれかに話したくなる本の話

「週休3日制」で働きやすさはアップするか?見せかけだけのケースも

さまざまな業界で人手不足が叫ばれ、人材の確保に苦労する会社が多いなかで「いかに人材を離職させないか」「いかに長く会社に貢献してもらうか」は各社共通の課題となっている。

人材を揃えるのに汲々としている状態では会社の成長はおぼつかない。その意味では「従業員が働きやすい職場」を提供し、離職率を低く抑えることは、企業や事業の成長に直結する。『働きやすさこそ最強の成長戦略である』(大槻智之著、青春出版社刊)はこの観点から書かれた一冊。

今回は著者の大槻智之さんにお話をうかがい「働きやすい会社とはどんな会社なのか」「働きやすい会社をどう作るか」について教えていただいた。

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■「長時間労働の職場=働きにくい職場」ではない

――『働きやすさこそ最強の成長戦略である』は今の企業の働き方の実態がクリアに見える本でした。まずお聞きしたいのが、この本で大槻さんが訴えている「働きやすさが企業の成長(業績の向上)につながる」という意識をどのくらいの企業が持っているのかという点です。

大槻:ほとんどの会社はわかっているとは思います。ただ従業員の働きやすさを追求しているかというと、そこはあまりやっていない気がしますね。

――様々な環境や立場の従業員がそれぞれに働きやすい職場を作ることで離職率が下がり、結果として企業の成長に結びつくということを感覚としてはわかっている。

大槻:そうですね。ただ、何らかの制度をとりあえず入れてみる、というところで止まっているケースが多く、そこまで踏み込んだことはできていない印象です。

――それは、働きやすさのために何をすればいいかがわかっていないということですか?

大槻:わかっていないこともあるでしょうし、わかろうとするところまでいっていないのもあると思います。というのも、今、企業の人事を取り巻く環境はすごく規制が多いんです。法令順守の方に手一杯で、それ以上のことができない会社が多いのだと思います。

――企業側が提供する従業員の「働きやすさ」について大槻さんが意識するようになったきっかけがありましたら教えていただきたいです。

大槻:私は社労士なのですが、「どうしてこんなに労務のトラブルが多いんだろう」と昔から疑問だったんです。労使間のトラブルって、たとえば会社側が法律違反をしていたとかわかりやすいものもあるんですけど、そうでないものもたくさんあります。

法的に問題がないとすると、それはその従業員と会社の相性が悪かったということです。そもそも会社の居心地のよさや働きやすさって人によって違うじゃないですか。今は労働時間を短くしようという方向に世の中が動いていますが、以前料理人やシェフを目指す人たちに取材させてもらったら、彼らは逆のことを考えていました。

つまり、彼らは早く独立したいので、労働時間が延びてもいいから早く独立に必要な知識や技術を教えてもらいたいんです。これは極端な例ですが「長時間労働の職場=働きにくい」とは必ずしも言えません。一番大事なのは「マッチング」なんです。会社の飲み会だってそうじゃないですか。

――「若い人は会社の飲み会に行きたがらない」とよく言われますが、好きな人もいるでしょうからね。

大槻:飲み会が好きな人なら、仕事外のコミュニケーションの場になるイベントが多くある会社は「働きやすくていい会社」となるでしょうし、飲み会が嫌いな人には「最悪な会社」になる。そういう意味では会社と人のミスマッチをなくしていくことが本来的な「働きやすさ」に繋がっていくのだと思います。

だから、今回の本では働きやすい職場を作るために「これをやるべき」ということまで踏み込んでいません。それよりも「こういう取り組みをしている会社なので、うちのやり方に合う人は来てね」というスタンスを作る方がいい。

――会社としてやっている施策を明確に打ち出すことができれば、ミスマッチは減らせるということですよね。

大槻:そうです。給与も「うちは年功序列ですから」と最初に言っておけばそれに不満を持つ人は来ないわけですから。ただそこで嘘をつく企業がけっこうあったりするんですよね。嘘ではないにしろ、たとえば残業時間は各部署の中間値をとって一番少なめの数字を乗せるとか。それって全然意味のない数字じゃないですか(笑)。

――たしかにそうですね。

大槻:採用の時に嘘や誇張が入ると、入ってから「こんなはずじゃなかった」ということで人が辞めやすいんです。そういうところで本当の意味の働きやすさとは何なのかを企業は追求してほしいという思いで今回の本を書きました。

――従業員の働きやすさのためや多様性の確保のために、会社によってはすでに様々な取り組みをしています。メディアでも取り上げられているものも多くありますが、大槻さんから見て「これはうまくいかないだろう」というものがあったら教えていただきたいです。

大槻:週休3日制は、私が聞く限りコケているところが多いですね(笑)。

――休みが3日もあるなんてみんな嬉しいんじゃないかと思ったのですが、そうでもないのでしょうか。

大槻:週休は3日にするけど給与を下げるとか、残りの4日間は長時間働いてね、とか、単純に休みが1日増えるだけという会社は少ないんですよ。だから「給与下がってまで休みたくない」「そんなに長時間働けない」という人が一定数出てくる。

――なるほど。それは全然うれしくないです。

大槻:給与や労働時間はそのままで週休3日にする方法もなくはないと思うんですけども、大企業になればなるほどインパクトが大きいのでなかなかできないんですよね。だから見た目だけの「週休3日制」になってしまうんです。

――逆に従業員の働きやすさの追求が業績の向上という結果に表れた会社の例があったら教えていただきたいです。

大槻:私が知っている会社は労働時間を完全にフリーにしました。何時に仕事を始めてもいいし、どこでやってもいいというように。もちろん深夜労働には割増賃金を払わないといけないなど法的な問題はありますが、従業員から苦情が出ていないのでそこはクリアしたのでしょう。結果として生産性が上がったそうです。

――その働き方が従業員たちの求めるものと合っていたということでしょうね。

大槻:IT系の会社だったので、集合して同じ時間に仕事をすることがそこまで必要ない職種だったというのもあります。ただ、それによって離職率が下がれば無駄なコストは確実に減るんですよね。働き方が従業員の求めるものと合っているというのに加えて、評価制度がきちんとしていれば組織の生産性は上がっていきます。

(後編につづく)

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働きやすさこそ最強の成長戦略である

働きやすさこそ最強の成長戦略である

「いま、どんな業種の企業であれ、共通するひとつの最強の成長戦略にたどり着きました。それが、雇用主・労働者の双方にとってメリットのある“真の意味での働きやすさ"を実現することです」。著者は、社員の幸福度と会社の業績には密接な関係がある、と説きます。500社を顧客にもち、年間相談件数7000件の日本最大級の社労士事務所の代表が、社員と会社の関係が好循環でまわりだす極意を徹底解説。20年以上にわたり、さまざまな労務トラブルを解決してきたなかで知り得た生きた知識を、多くの実例とともにあますことなく伝えます。

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