【「本が好き!」レビュー】『帰れない山』パオロ・コニェッティ著
提供: 本が好き!ピエトロは、山を愛する両親に育てられた少年なのですが、物心つく頃には父親の仕事の都合でミラノに転居することになります。しかし、両親は共に山への思いを持ち続け、山登りのシーズンにになると山へ出かけ、いつしかピエトロも父と共に山に登るようになります。
母は山での暮らしを忘れることができず、遂にモンテ・ローザ近郊に家を借り、夏山シーズンになるとピエトロと二人でその家で暮らすようになり、週末には父親もやって来てピエトロと二人で登山をするようになるのです。
そんな暮らしの中で、ピエトロはモンテ・ローザで羊飼いをしていた同年代の少年のブルーノと知り合い、父親はブルーノも一緒に山に連れて行くようになるのです。こうしてブルーノもすっかり山に魅せられていくのでした。
その後、思春期を迎えたピエトロは、少年特有の父への反抗心、都会の生活への馴化などもあり、遂に父と共に山に登ることを拒否するようになり、家を出てしまいます。不器用な父親は何も言わず一人で山に出かけるようになっていくのですが、実はモンテ・ローザではブルーノと二人で山に登っていたのでした。
父が亡くなった後、その遺品整理に戻ったピエトロは、父がモンテ・ローザに土地を買い、家を建てる計画をしていたことを知ります。しかし、残された書類からはどこに土地を買ったのかまったく分かりません。母は、ブルーノなら知っていると言い、ピエトロが家を出た後の父とブルーノとの交流を打ち明けるのでした。
もう何年も会っていなかったブルーノなのですが、今では石積み職人になっているとか。意を決してブルーノに会いに行くピエトロなのですが、会ってみるとこれまでの離れていた時間は溶け去り、あっと言う間に元の親友同士に戻ることができました。ブルーノは、父が買った土地にピエトロを連れて行き、そこに建っていた崩れかけた小屋を立て直すという父の計画を知らされます。「手伝いがいる。やるか?」とブルーノに尋ねられたピエトロは、一も二もなくこの誘いに応じたのです。
こうして二人は何か月もかかって家を建て直すのです。ピエトロは、すっかりなまってしまった身体にむち打ち、モンテ・ローザの家と建築現場を往復し始めます。ブルーノは、「こうするもんだ」と言い、建築現場に泊まり込むのです。
このような生活を続けていくうちにピエトロは父やブルーノと共に登った山のことを思い出し、再び山に憧れるようになっていくのです。
家が完成した後も、ピエトロは度々この家を訪れ、そこで寝起きして山に登るようになり、ブルーノもこれまでに貯めた金を元手にして土地を買い、牧場を経営するようになります。
ピエトロは、それまでに何人かの女性とつきあっていたのですが、いつも時間が経つと自分から去っていくことを繰り返していました。ピエトロはどうにも一所に落ち着いて一人の女性と暮らしを共にすることができない性分のようなのです。今もラーラと別れることを決意し、最後にラーラを父が残した家に連れて来たところでした。親友のブルーノにもラーラを紹介したところ、ブルーノはすっかりラーラに魅せられてしまうのです。
ラーラと別れたピエトロは、チベットでの生活を始めるようになるのですが、ある時、ブルーノからの電話を受けます。どうやらブルーノとラーラは一緒に山で暮そうとしているらしく、そうしても良いのか?と尋ねてきたのです。なんて律儀な男なんだと、ピエトロは思うんですね。もちろんだ、ラーラとはもう何でもないんだ。
こうして、ブルーノとラーラは一緒に暮らし始め、二人で牧場を営むようになり、子供をもうけるのです。
ここまでは、ある意味順調なんでしょう。
しかし……という物語です。
山を愛した両親、山で知り合い一生の友人となるブルーノ、ある意味で父を捨てたことへの呵責、その後の父親とブルーノとの交流、ブルーノとラーラの生活などを通じて山での生活、その憧れなどが描かれていく純朴でストレートな物語です。
ちょっとローベルト・ゼーターラーの『ある一生』を思い出させるところもある作品です。『ある一生』の主人公のエッガーは、どこかピエトロの父親のようでもあります。
シンプルでストレートな魅力を持った作品ではないでしょうか。
作者のコニェッティは一年の半分をアルプス山脈で、残りをミラノで過ごしているそうで、この作品のピエトロの幼少期の描写は自伝的でもあるのだそうです。
ほろ苦さも伴う、清らかな感情を沸き立たせる一冊。
読了時間メーター
□□□ 普通(1~2日あれば読める)
(レビュー:ef)
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