【「本が好き!」レビュー】『新しい星』彩瀬まる著
提供: 本が好き!評価が分かれそうな作品です。
彩瀬まるさんは追いかけている作家さんで、これまで全作品を読んでいます。
この作品は、著者が初めて幻想表現を使わなかったところが特徴的です。
ということは普通に楽しめる小説で、主題がダイレクトに伝わってきたのです。
一方で、これまでの独特の世界観を期待する人にとってはもの足りなさがあるかもしれません。
もちろんつまらないと言っている訳ではないのです。
これはこれできちんとお話になっていますから。
うーん、どう評価したらいいのか難しいです。
全八篇の連作です。
一話が三十頁前後の小品ですが、全体がつながっているので短篇集というよりは視点を交代していく一本の長篇という感じでした。
大学時代、仲の良かった四人の合気道部員が、社会に出ていろいろな荒波にさらされ、ゆるやかにお互いを支え合っていくという物語です。
第一話。表題作の新しい星です。
語り手は森崎青子。妊娠時にトラブルが続き、早期出産したなぎさが、わずかな期間でこの世を去ったのです。
一連の出来事が引き金となり、青子は離婚して実家に帰ってきました。
開始三ページ目で、いきなり言葉が投げ込まれます。
新しい星で、青子はやはり一人だった。堕ちた砂地で途方に暮れて、すすり泣く母親を眺めていた。
なぎさのいない世界。
そのことを受け入れるのに時間がかかり、自分がもう一度産まれ直したような感覚を得て、前に進み始めます。
きっかけは合気道部で一緒だった茅乃との再会です。
いまは五才の娘の母親の茅乃。
青子は自分を責め続け、自分の身体が原因だと考えているのですが、茅乃は全然違う視点をもたらしてくれたのでした。
少しずつほどけていく青子。
そんなお話です。
社会生活のつらさをぽつぽつと語っていきます。
死の世界が近いのは、著者の関心のある分野だからでしょう。
これまでの作品と同じです。
すんなりと読めるこの作品は、きっと新たな読者を獲得するでしょう。
これまでのファンともうまく続いていくといいなと思いました。
(レビュー:たけぞう)
・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」