【「本が好き!」レビュー】『旅の終わりに (海外文学セレクション)』マイケル・ザドゥリアン著
提供: 本が好き!認知症を患う夫ジョンと、末期ガンでもう全身ありとあらゆる病を抱えたエラ。
認知症で危ないからと、父親の運転免許証を取り上げようとした子供たちも無視。
ありとあらゆる延命措置を取ろうとする主治医も無視。
老夫婦の二人は、ディズニーランドを目指し、ルート66でアメリカ横断の旅に。
強盗に出くわしたり、ジョンがエラを置いてきぼりにして一人で車を出そうとしたり、夜中に起きて騒いで迷惑をかけたり、もういいや!と大金をはたいてホテルのスイートルームに宿泊したり・・・
もうきちんと睡眠もとれない。体が重くて起き上がれない、ろくに何も食べられないエラ。
反対にハンバーガーを食べることばかり考えているジョン。
何度もピンチに陥り、命の危険を感じつつ、もう死にかけてるんだからどってことないわ、とあっけらかんと、でも何よりも強い思いをもって、二人が向かったその場所は・・・
もうエラの行動力のすごさに脱帽ですよ!
末期がんなのに、杖や歩行器がないと歩けないのに、行くと決めたらとにかく行っちゃう。やりたいこともやっちゃう。
もう先はそんなに長くないんだし、好きな事させてよ、ってなんて素敵なおばあちゃまなんでしょう!
ジョンは認知症だけど、まだら状態で、一日数分はエラのことも思い出してくれる。
その一瞬を本当に愛おしく大切にしているエラ。
もちろん認知症で愛する人が自分を忘れていくのは耐え難くつらいことでしょうけれど、でもその一瞬を大切にしているエラが、私はうらやましくて仕方ありません・・・
私の母も若年性の認知症を発症しました。
65になるころにはもうだんだんと普通のことができなくなっていって、父は仕事を辞めて母の世話をしていましたが、もう父一人では無理になって、施設から、今は病院に入っています。
本を読んでいてずっと思い出していたのは両親のことでした。
コロナが落ち着いてきて、週に一度15分、大人二人だけ面会できるので、隣の隣の県に住んでいる私は父と一緒に月に一度はお見舞いに行くのですが、 もうね、なんていうか、父の母に対する愛情のあふれっぷりに毎回感動するわけですよ。
15分ずっと顔をなで、腕をさすり足をさすり、まったく反応のない時がほとんどなのですが、ずっと触れながら話しかけているんです。
自分の親なので最初はこっぱずしかったんですけど、いや、76歳でこんなにも愛情を示すことができるなんて、すごいなと。
エラはジョンのことを心から本当に愛している。
それが物語の最初から最後まで端々にあふれていました。
夫婦って、他人同士が何十年も寄り添って生きて、子を生し、育て、そしてエラとジョンのようにいつか終わりは来る。誰にでも。
最後にこんなハチャメチャな冒険を愛のためにやってしまうエラに脱帽です。
それには相棒が必要なんでしょうねぇ・・・
独り身としてはそこがちとつらい・・・
(レビュー:yuko)
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