だれかに話したくなる本の話

【「本が好き!」レビュー】『文体の舵をとれ ル=グウィンの小説教室』アーシュラ・K・ル=グウィン著

提供: 本が好き!

ル・グウィンによる文章教室です。
ル・グウィンは体験型執筆講座を多く開催しています。
その経験をもとにして、文体の舵をとれの初版が1998年に発行されました。
十年以上たち、講座開催を積み重ね、全面改定したのがこの一冊です。

わたしは有名作家の文章教室の本をこれまで何冊か読んでいます。
中には実用性にふったものもありました。
この本は、翻訳者解説にも書いてある通り文章読本的な要素があり、文学部の教養的なハイレベルの仕上がりになっています。

はじめにでも、初心者向けではなく自作の執筆に励んでいる人が対象と書いてあります。内容的に、文章作業の部分はその通りと思います。
でも、それだけではないのがこの本の魅力なんですね。
一般読者に対しては、ル・グウィンが文章を書くのに何を気にしているか、プロットとは何か、物語とは何かという根源的な問いに対して自分の解釈を述べているので、読みどころがあるのです。

それにしても難しかったですね。
一人称、三人称単視点・神視点ぐらいは知っていました。
しかし三人称でも、限定視点(単視点のこと)、潜入型(神視点のこと)、遠隔型(カメラアイ、客観視)、傍観(第三者の語り手)に区分し、すべての例文を載せてあるので頭がパンクします。
POV(Point Of View)というキーワードがあるのですが、立っている場所で書き分ける行為を指していて、先ほどの視点で何がどう違うのかを分析するので精一杯です。

これを日本語で正確に、しかも流れるように翻訳してあるのもとてつもないレベルの仕事と思います。
文体理解度が並外れているのでしょう。
視点の切り替えなどで引用例文が多いのも特徴です。
ウルフの灯台へやジェイコブの部屋は難解と評される作品ですが、これを絶賛してたびたび例に使うのも興味深いところです。

物語の考え方も面白いですね。
翻訳者のあと書きで知りましたが、ル・グウィンは自分の書くものが聞こえるとのことです。最近読んだ小川洋子さんの本には、洞窟に物語が書いてあるとのことでした。
共通点を感じます。

結局、小説を書く技術とは、自分に向きあって自分の内面からの声なり文なりを丁寧に観察して写し取っていく作業なのでしょう。
何かが下りてくるのを書きながら待つと話してくれた作家さんもいます。

著者の大事にしている秘密を教えてもらって嬉しくなりました。

(レビュー:たけぞう

・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」

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文体の舵をとれ ル=グウィンの小説教室

文体の舵をとれ ル=グウィンの小説教室

技巧(クラフト)が芸術(アート)を可能にする
『ゲド戦記』『闇の左手』のアーシュラ・K・ル=グウィンによる小説家のための手引き書

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