だれかに話したくなる本の話

【「本が好き!」レビュー】『亡国のハントレス』ケイト・クイン著

提供: 本が好き!

表紙の女性の表情は、陰になっていて見えない。笑っているようでもあるし、沈んでいるようでもある。タイトルロールのハントレスなのか。ちなみにハントレスとはHunterの女性形だ。そもそも女性に狩猟反応があるのか?と思う人もいるだろう。通常の概念としては女性は暴力の被害者だ。しかし、中には嗜虐的行為に快感を覚える女性もいるらしい。ハントレスもその一人だ。

プロローグは間違いなくハントレスの描写だが、彼女がその後どうなったかは出てこない。勿論そうだろう。ハントレスはこの後追う者ではなく追われる側に立つ。簡単に行方と正体がわかってしまうと興覚めだ。

物語は三層構造で進み、それぞれの時代と主人公も異なる。
まず1946年、アメリカ・ボストンのジョーダン。学生時代からのステディギャレットもいて、母を亡くした父と二人暮らしだったが、今度父がアンネリーゼという女性と再婚することになった。写真に興味を持つジョーダンが、あまり写真に写りたがらないアンネリーゼを撮った時、“彼女は見えている通りの人ではないのでは”と疑いを抱く。

実は、この第一の主人公編で、勘のいい人にはハントレスの正体がわかる。よってハントレスは誰=Whoを明かすのではなく、When=いつ、誰が=Whoハントレスの正体を暴くかという点にサスペンス要素がシフトされる。

第二の主人公は、弟をハントレスに殺されたジャーナリストのイアンだ。私心の復讐と、ジャーナリストとしての正義の狭間で苦悩する、定番のヒーローポジションと言える。1950年と第一の主人公と時代も近い。主人公は勿論フィクションだが、実在の人物フリッツ・バウアーと会話する場面もある。また、ケイト・クイン作品を読んだ人だけにわかる“あの人”も再登場。但しほんのすれ違いなのが残念。

第三の主人公が実は一番輝いている。後に、第二の主人公イアンとも繋がりが出来るロシア人のニーナだ。子沢山の一家に生まれたため最初から相手にされず、果ては父から魔女と恐れられ、池に沈められる虐待を受ける。しかし与えられた運命にノーを突きつけ、ロシアの飛行士になろうと村を飛び出す。1941年で唯一の戦中時代を描いている。ソ連の支配者は粛清大好きスターリンなので、戦中といえど熱心な共産主義者でさえ安心してはいられない。持ち前の気の強さと持って生まれた才能で、恋と戦いに躍り出ていく彼女パートが最も読み応えがある。あまり書き込み過ぎると正体がばれてしまうのを恐れてか、ターゲットとされたハントレスが表に出る場面が少ない。そのため、二人目のハントレスとなるニーナが、実質主役のような全体のボリュームだった。第一作『戦場のアリス』に続き、戦場で輝く女性達を描いたケイト・クインの第二作。

(レビュー:星落秋風五丈原

・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」

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亡国のハントレス

亡国のハントレス

第二次大戦後、激動の時代に消えた殺人者
“ザ・ハントレス”の正体とは――

「戦場のアリス」(「本の雑誌が選ぶ2019年度文庫ベストテン」第1位/本の雑誌増刊『おすすめ文庫王国2020』)著者が放つ全米ベストセラー!

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