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【「本が好き!」レビュー】『0番目の患者 逆説の医学史』リュック・ペリノ著

提供: 本が好き!

タイトルの「0番目の患者」とは、感染症学で、集団において初めて特定の感染症に罹ったと見なされる患者のことを「ゼロ号患者(ペイシェント・ゼロ)」と称することに由来する。
著者はこれを拡大解釈して使用しており、ある疾患や医学的な事象が広く社会に知れ渡る際に大きな役割を果たした「第0号患者」たちを19章に渡って取り上げている。
医学の歴史を語る際、得てして何らかの病気を「発見」した医師が大きく取り上げられる(そして時には、疾患に発見者の医師の名前が付けられる)傾向があるが、本書の特徴は「患者」に注目したことである。副題の「逆説」はそのことを指していると思われる。
医学の歴史の背後に患者あり。いや、むしろ、患者なくして医学はないのだ。

前頭葉損傷、アルツハイマーといった疾患が認識される事例もあれば、腸チフスのスプレッダーとなった患者や狂犬病ワクチンを最初に接種された事例もある。CTスキャンやMRIで脳の画像が映らないが、一通り生活できているという驚くべき症例もある。癌で亡くなったが、死後、その細胞が広く研究に用いられている女性の例も取り上げられている。
著者は医師でもあるが、作家・エッセイストでもある。各事例は物語形式で読みやすく綴られており、興味深い読み物となっている。

個人的には、ヒステリーの項と、遺伝性の言語協調障害、マイクロキメリズムの話を特に興味深く読んだ。
「ヒステリー」は子宮を意味するギリシャ語から採られている。古代エジプトでは子宮が身体を動き回ることが原因だと解釈されていたという。もちろん、第0号患者は不明だが、近代医学でヒステリーが注目された際の患者はわかっている。中でも医師シャルコーが取り上げた患者オーギュスティーヌは、シャルコーがその公開講座で、半ばショー的にオーギュスティーヌ本人を舞台に上げて症状を紹介したことや、2人の関係が性的なものを含んでいたため、いささか問題になった。心の葛藤が身体症状として現れることは実際あることだが、こうした男性優位な形での精神医学の取り組みは、かなりの問題を孕んでいたのは想像に難くない。

言語協調障害の話は、1人の女性に端を発する。パキスタンに生まれたウンサは健康状態に問題はなかったが、話すことがまったくできなかった。やがて彼女は結婚し、子供をもうけた。女の子3人、男の子2人のうち、末っ子の男の子以外は発話に問題があった。次世代にも発話に問題がある子とない子が出た。調べていくと発話に問題を持つものでは、第7番染色体に異常が見つかり、ここにはFOXP2遺伝子があった。この遺伝子は大脳皮質から届く情報を解読する領域で遺伝子の制御を行う働きを持っていた。言語の能力はもちろん、この遺伝子だけで決まるものではないが、重要な役割の1つを果たしていたのだ。

マイクロキメリズムとは、1つの個体の中に、遺伝的に由来の異なる少数の細胞が存在することを指す。個体は1つの受精卵から発生し、通常は身体を構成する細胞はこの受精卵の「子孫」ということになる。だが、まったく異なる由来の細胞が少数存在する例がある。本書の例では、献血をしようとした女性が血液型判定を受けると、A型とO型の混在が見られた。この事例では、女性が出産した際に、胎児から母体へ細胞が移動し、定着したことがわかった。後に、これはそれほど珍しいことではないことがわかるが、それをはっきり示した最初の事例となった。母体から胎児へのマイクロキメリズムの例もまた知られている。

さまざまな病気から人体の不思議について学ぶ、なかなか興味深い1冊である。

(レビュー:ぽんきち

・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」

本が好き!
0番目の患者 逆説の医学史

0番目の患者 逆説の医学史

本書では、輝かしい歴史の裏側に埋もれた、病者たちの犠牲と貢献にスポットを当てていく。

コロナ後の世界において、最初に感染した者たちへのバッシングは絶えない。
しかし、犯人捜しにも魔女狩りにも意味はない。

Covid-19の感染拡大を受けたロックダウン宣言の直前にフランスで出版されたこの本に登場する患者たちの物語が、私たちにそのことを教えてくれるだろう。

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