だれかに話したくなる本の話

天才は「スキル」で超えられる 元BCGマネジャーが明かす仕事の極意

職場で評価されていないと感じたり、努力が報われないとフラストレーションがたまるもの。ただ、くさったりやる気をなくしたりする前に、自分の仕事を振り返ってみると打開策が見つかるかもしれない。

『変える技術、考える技術』(実業之日本社刊)は、ボストンコンサルティンググループ(以下、BCG)でマネジャーを務めた高松智史さんが「報われない自分」から抜け出すための「スウィッチ」を授けてくれる一冊。

行動を変えれば、結果も変わり、周囲からの評価も変わる。では、行動をどのように変えればいいのか。本書を下敷きに高松さんにうかがった。今回はその後編だ。

高松智史さんインタビュー前編を読む

■「フレームワークバカ」「打ち手バカ」「Taskバカ」に注意

――「フレームワーク=制約」という意見は新鮮でした。制約は取り払って考えた方がいいに決まっているのに、この本で「フレームワークバカ」と指摘されているように、ビジネスの現場ではとかくものを考える時にフレームワーク的な思考がされがちなのが不思議です。

高松:端的にいえば「教えやすい」ということだと思います。これがこの本で一番言いたいことでもあるのですが、ビジネスって「答えがないゲーム」じゃないですか。ここまでのお話にあった「愛と想像力」にしても「チャーム」にしても、その人なりのやり方があるわけで、正解や公式のようなものはありません。

一方で、フレームワークって「4P」とか「3C」とか、一見答えがあるように見えるし、明快に見える。だから使いやすいし広がりやすいんだと思います。

ただね、コンサルティングファームではフレームワークなんて使わないです。

――そうなんですか? そもそもコンサル業界から広がった考え方だと思っていました。

高松:僕はBCGに8年いましたけど、ほとんど使ったことがないです。たとえばハーバード大学を出てBCGに入ってきて、最初のミーティングで「ファイブフォース分析で…」なんて言ったら、シーンとするでしょうね。そのくらい使わない。

答えが出ているものに対して整理する時には使うかもしれませんが、少なくともあれは何かを考えたり生み出すためのものではないですよ。何かを生み出すのに使っても「ホームランは絶対打てないけどヒットを打つ可能性は少し上がるかもしれないね」くらいの効果しかないです。制約を設けたほうが考えやすいこともあるので。でも、それで出てきたアウトプットの質なんて知れています。

「フレームワーク」と同じように広まっているもので「ロジカルシンキング」もありますけど、あれもゴミです。いらない。

――「フレームワーク」にしても「ロジカルシンキング」にしてもそうですが、わざわざ思考に枷をはめるようものが広まっているのは日本特有のことなのでしょうか。

高松:特に日本とか韓国はその傾向が強いとは思いますが、日本特有かというとそうではないと思います。ただ、フレームワークにしてもロジカルシンキングにしても、「問い」よりも「答え」に価値が置かれる社会に相性がいいとは思います。

――「ビジネスは答えのないゲーム」という、この本のメッセージにつながるお話です。答えに価値を置くことに慣れすぎると、答えのない世界でどう動けばいいのかわからなくなりそうです。

高松:最低限「自分は答えのないゲームをやっている」ということがわかっていればいいんですよ。そこがわかれば行動は変わります。

たとえば、これからYouTubeを始めようというときに、今現在登録者1万人いる人を見つけて「どうやったらうまくいくんですか?」といきなり聞く人は「どこかに答えがあると思っている人」です。こういう人は救いようがない。だけど、誰にでも当てはまるような答えがないことがわかっていれば、もっと別のアプローチをとりますよね。

答えだとか攻略法とか裏ワザがあって、誰かがそれを持っていると考えるのは、ビジネスにおいてはまちがいです。

――「打ち手バカ(課題を深掘りせずに施策から考えてしまう人)」「Taskバカ(同様にタスクから考えてしまう人)」の話は思い当たることが多かったです。こうした人たちはなぜ生まれてしまうのでしょうか?

高松:それはバカだから、というのは冗談で、やはり先ほどのお話にあったように「答え」が好きなんでしょうね。

あるモテないAさんにどうやったら恋人ができるのか、というときの「打ち手バカ」の思考は「マッチングアプリやろうぜ」で、「Taskバカ」の思考は「Aさんの過去の恋人について聞く。そのあと、友達にも話を聞く」です。でも、これって全然ダメですよね(笑)。

本当なら、「今現在Aさんは恋人を作るためにどんな活動をしているのか」「それがなぜうまくいっていないのか」「そもそも恋人は必要なのか」などなど、現状に対しての問いを立ててからやるべきことを考えないといけません。「問いを持った部族は生き残ったが、答えを持った部族は滅びた」というネイティブ・アメリカンのことわざがあるように、本当に大切なのは問いの方なんですよ。

――「答えのないゲーム」だからこそ「いかに本質な問いをたてるか」がキモになるわけですね。

高松:そうなのですが、これは難しいことです。いい問いというのは、クライアントなり、友達なり、恋人なり、関係する人についてリアリティをもって考えることでしか到達できません。そこで結局は「愛と想像力」に戻るわけです。

――ビジネス書の読み方についてのお話で、「読書は価値観を醸成するためのもの」というのが新鮮でした。知識を得るために本を読む人が多いなかで、読書を通して価値観を醸成するためにどんなことをすべきでしょうか。

高松:価値観とはその人の生活に根差したものです。だから「自分の生活でいうところのこういう話かな?」というように、実生活と照らし合わせながら咀嚼することが大切です。

本を読みながらメモを取る人がいますが、そこがないとメモを取っても意味がないですし、実生活と紐づく気づきが得られたら、メモなんて取らなくても記憶しますよ。

本を読みながらメモを取る人は、旅行に行ったり食事に行くとなんでも写真に撮る人に似ています。どちらも、見たものを記憶するためにやっているようでいて、実は記憶を自分の頭の外に保管することで、むしろ記憶をしないようにしています。そうすると自分の中の他のものと混じり合って変化することがないんですよね。それはもったいない。

――ファクトにこだわりすぎて「示唆」が抜けてしまうというのもありがちです。もちろんファクトはファクトで大事なわけですが、そこから示唆を導き出すための訓練方法についてお聞きしたいです。

高松:僕が教えている「考えるエンジン」講座に来てください、というのは冗談ですが、ファクトから示唆を出すって難しいですよ。コンサルタントでもほとんど理解できていません。

ただ、日常で訓練することはできます。下世話な話ですが、彼氏が携帯電話を裏返して置いていたら「浮気しているのかな」と考えたりするじゃないですか。それだってファクトから導き出される示唆です。そうやって見たものからあれこれ想像してみる訓練をしてみるといいかもしれません。

そしてもう一つ、誰かの話を聞くときは「これはファクト、この部分は示唆」というように区別して、ファクトと示唆の線引きをしてみるのも訓練になるはずです。

――最後に、読者の方々にメッセージをお願いいたします。

高松:まずは若い部下を持つ上司の方は、部下に口うるさく言うよりも、この本を部下に渡していただきたいです。そうすれば部下から煙たがられることもないですし、仕事の仕方について部下と議論を深める土台になります。もちろん、書いてあることが違うと思ったら、大いに僕を悪者にしていただいて構いません。

そして若手社会人の方は、東大理3を出ているようなトップクラスの頭脳を持つ人以外は、この本に書いてあることをひとまず暗記して実践しなさいと言いたいです(笑)。地頭で勝てなくても、この本にあるスウィッチのところを実践していけば、絶対勝負できるので。

僕もBCGに入った頃は「採用ミス」と言われていたくらい優秀ではなかったのですが、優秀な人から学んだことを言語化して実践することで、最終的には優秀な人よりも秀でることができました。仕事って「センス」や生まれ持ったものでは決まらないんです。

世の中には「天才」と言われる人がいますけども、そういう人のほとんどは「スキル」で超えることができます。この本にはその「スキル」を詰め込んだので、ぜひ実践して天才を超えていただきたいです。

(新刊JP編集部)

高松智史さんインタビュー前編を読む

変える技術、考える技術

変える技術、考える技術

僕はBCGという戦略コンサルティングファームで、まさに「もがきながら」(コンサル風に言えば、ストラグルしながら)8年間、マネージャーまで昇進した。

BCGは、楽しかった。

今思うと、入社当時の僕には「戦略」や「コンサル」のセンスは無かった。
けれども、幸い、「人にかわいがられる」力(コンサル風に言えば、チャーム)はあった。

そのおかげで、数多くのセンス溢れる先輩(のちに師匠たち)との「距離」をつめることに成功し、彼らから「考え方」「働き方」のような社会人としての基礎だけでなく、人生のなかで本当に大事なこと、全てを学ばせてもらった(厳密には、大学時代のバイト「ウイニング受験英語」、新卒で入社した「NTTデータ」も含む)。

そのエッセンスを、「行動を変える」技術=「スウィッチ」として結晶化させ、この1冊に詰め込んだ。

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