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「自分についてこい」型リーダーは時代遅れ! 最も部下の能力を引き出せるリーダーのあり方とは

リーダーのあり方は時代の変化とともに変わるもの。一時代前の「自分についてこい」という典型的なリーダー像も、現代ではもう時代遅れかもしれない。

多様性の大事さが叫ばれる現代において、その価値観を投影した新たなリーダーシップが求められている。そう語るのが、コロンビア大学博士(教育学)であり、指揮者でもある箱田賢亮氏だ。

16歳でアメリカに渡り、高校教師やオーケストラの指揮者、大学の学部長などといったリーダーを歴任。その経験に基づいて書かれた『プロフェッショナルリーダーの教科書』(あさ出版刊)は、箱田氏がアメリカのコロンビア大学で出会った「最先端の教育理念」を応用した、エンゲージメント型のリーダーシップの形が解説されている。

これからのリーダーに必要なものは何か。箱田氏に聞くインタビューは、今、リーダーの立場にいる人はもちろん、これからリーダーになる人も必読だ。

(新刊JP編集部)

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■「良いリーダーは部下によく質問をする」 エンゲージメントリーダーの言動とは

――本書で書かれているリーダー像は、一時代前の「自分についてこい」タイプのリーダー像ではなく、いわゆる部下を引きつけて能力を最大限に引き出す「エンゲージメント」型のリーダー像です。現代では求められるリーダー像の変化が大きくなっていますが、その変化はなぜ起きているのでしょうか。

箱田:私はアメリカにいた時期が長かったのですが、そのアメリカでも、以前は「自分についてこい」型のリーダーシップが主流だったんです。それが90年代あたりから教育界に変化が起こり、人間の多様性を認め合おうという動きが出てきました。性的マイノリティであったり、あらゆる人種であったり、みんなが平等に暮らせる世の中にしようという動きですね。

多様性を認め合うことを重要視する教育法がメインストリームになって20年以上経ち、その教育を受けた人たちが大人になって、ビジネス界にも影響が出てきているのが現在です。「自分についてこい」型のリーダーだと、ついて行けない人が必ず出てきますよね。でも、新しい教育の形は「誰も見捨てない教育」です。だから、旧来のリーダー像が合わなくなっているというわけです。

――なるほど。その考え方は日本でもよく聞くようになっています。

箱田:そうですね。アメリカで起きた変化は10年、20年後には日本にも影響を及ぼします。それはリーダーシップのあり方も同じです。だから、エンゲージメントを引き出すリーダーシップも日本でようやく認められはじめたところですね。

――今、リーダー的な役割を担っている人の中には、エンゲージメントリーダーに変わろうと思っても、どう変わっていいのか分からない人も多いと思います。

箱田:私もはじめの頃は「自分の言う通りにしていればうまくいく」という「自分についてこい」型のリーダーでした。そういうリーダーに共感できる人はうまくいくのですが、共感できない人は取り残されてしまいます。そうなると、チームとしてもまとまらないし、貴重な人材を失ってしまう可能性もあります。

今いるメンバー全員を大切にしたいと思っているのであれば、「自分についてこい」タイプのリーダーシップでは難しいですね。ただ、そういうリーダー像しか知らないという人もいると思います。その場合、まずは固定観念を捨てることからはじめましょう。昔はそれでうまくいきました。でも、今はうまくいきません。時代の変化についていかないと、リーダーは元より企業そのものもついていけなくなります。

――この変化は受け入れるしかない変化と捉えるわけですね。

箱田:そうですね。若い世代で新しく主流になりつつある考え方がすべて正しいとは限りませんが、そこに敏感にならないといけないことは事実です。彼らの文化を頭ごなしに否定するのではなく、自分も経験してみる。「SNSはよく分からない」と突っぱねるのではなく、実際にやってみて、彼らがそこでどういうコミュニケーションを取っているかを学んだうえで、自分の考えに合わせて若い人たちにアプローチしていかなければいけないと思います。

一気に変えるのは難しいですが、一つ一つ変えていくことは可能です。本書にも様々なアプローチ方法を書いていますが、すべてやろうとするのではなく、今月はこの新しいアプローチを意識してやってみようという感じで一つずつ取り組んでいくことで、新しい発見が必ずあるはずなんです。

――またリーダーの悪しき習慣としてよく挙げられるのが「自分でやってしまう」ということです。

箱田:ありますね。自分もそうだったリーダーの一人です(笑)。今でも、自分でやってしまう習慣はなかなか抜けませんね。

――自分がやってしまうと、部下が育たないですよね。もしくは、部下が指示待ちになって自分から動かなくなる。本書では「リーダーは演出家に徹する」と書かれていて、まさにその通りだと思いますが、そういう意識になるために必要な切り替え方を教えてください。

箱田:そうですね。まさしく「リーダーはヒーローではない。部下をヒーローにしよう」ということです。そうなるためには、まず、リーダーは常に主語を「I」ではなく「We」にしなさいと言っています。例えば「I need」ではなく「We need」に切り替える。

もちろん、最終責任者はリーダーです。でも、チームで進めるのだから、「We」を主語にして、一緒に成功に向かうことが大事です。そこで一つ重要なポイントが、成功体験を与えることです。成功体験こそが、リーダーとメンバーのエンゲージメントを高めるポイントです。

――リーダーだけが成功体験を得るのではなく、一緒に成功体験を求めていくというところがポイントですね。

箱田:その通りです。一緒に成功を求めて、実際に部下を成功させるためには、時間と労力がかかります。それでも、部下に仕事を任せて、困っていたら一緒に取り組む。決して、奪い取ってはいけません。「できていないじゃないか。俺がやるよ」だと意味がない。どうやったらその部下ができるかを一緒に考えて、結果的に部下に仕事での成功体験を与えるようにするのが、第一ステップです。絶対に部下のeffort(努力)を奪ってはいけません。

――箱田さんご自身もリーダーとして、さまざまな人の指導にあたって来られたと思います。そして以前は「自分についてこい」型のリーダーだったと。そうした中でエンゲージメントが大事だと気づいたエピソードはありますか?

箱田:いっぱいありますね(笑)。繰り返しになるけれど、「自分についてこい」型のリーダーだと、ついてこられない人もいるんです。例えば、オーケストラの指揮者に任命されたとき、80人ほどの楽団員を率いたんですが、そのうちの何%かは私のやり方に共感してくれなかった。でも共感できなくても、オーケストラには参加しないといけない。そういうときに、全員で良い演奏をするにはどうしたらいいか。本当に悩みました。その先に辿り着いたのが、エンゲージメントを引き出すリーダーシップだったんです。

その時はまず、私はリーダーの立場にいるけれど、演奏をする楽団員は私以上に優秀な人たちなんだということを自分にインプットしました。それも含めて、私は立場上、上に立っているだけで、全員平等であると目線を変えたんです。これですべてが変わり、自分が作りたいものを、みんなが手伝ってくれるという認識になったんです。まさに共同作業をしているという感覚ですね。「彼は○○のプロだから、そこは任せるよ」と。一緒にやったり、任せたりするようになりました。

――それは劇的な変化ですね。

箱田:リーダーになると「自分が一番よく分かっている」と思ってしまいがちですよね。でも、メンバーの方が現場をよく知っていたりするんです。現場経験が短い若い人も、上の世代が知らない新しいやり方を知っていたりします。つまり、みんな優秀なんです。「自分よりもみんなの方ができる」という考え方に変えたことで、オーケストラのパフォーマンスも格段に良くなりました。

――リーダーは立場でしかない、と。でも私たちは立場と人格と一緒にしてしまいがちです。リーダーっぽく振る舞わないといけないと思ったり。

箱田:そうなんですよね。だからすごく焦ってしまう。知ったかぶりしなきゃいけない、指示を的確に出さないといけない。そんな風に思ってしまうわけですよね。ただ、それを捨てて分かったのは、そんな風に思わなくても良かったんだと。分からないことがあれば、自分より知っているメンバーに聞けばいい。そっちの方が、ずっと良いアイデアが出てきたりするんです。

チームがうまくいかないなら、どんどん聞くべきだと思います。私も質問が多くなりました。指示を出すというより、リーダーとして質問をする。「こうしたいんだけど、どういう風にすればいいと思う?」とか。そうすると、メンバーの中に答えを持っている人がいるんですよ。その人が教えてくれます。

――なるほど、良いリーダーはよく質問をするというわけですね。

(後編に続く)

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プロフェッショナルリーダーの教科書

プロフェッショナルリーダーの教科書

リーダーシップの専門家として活躍する著者が「最先端のリーダー論」に基づき、プロフェッショナルリーダーとしてのあり方を紹介する。

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