【「本が好き!」レビュー】『ホテル・ネヴァーシンク』アダム・オファロン・プライス著
提供: 本が好き!本作は、『ハヤカワ・ポケミス』から出ていますし、事件も発生するのでやはりミステリということになると思うのですが、それにしてはちょっと変わった色合いの作品です。
物語の舞台になるのは、ニューヨーク州、キャッツキル山地の山間に作られたホテル・ネヴァーシンクです。
そもそもこの建物はある大富豪の私邸として建設されたのですが、この大富豪、子沢山を望んだようで、実に多くの部屋を作ったのです。
また、段々建築そのものに入れ込んでしまったようで、度重なる設計変更、継ぎ足しの建設なども重なり、私邸にしては巨大過ぎる建物になってしまいました。
結局、この建物はろくに使われることもないまま売りに出され、シコルスキーというユダヤ人一家に買い取られ、ホテル・ネヴァーシンクとして経営されるようになったのです。
当初は、ネヴァーシンクも結構繁盛したのですが、ある時、ホテルの泊り客の男児が行方不明になるという事件が起きます。
警察や周辺住民も総出で捜索に当たるのですが、結局発見できませんでした。
その後も、ホテル周辺では児童の失踪事件が相次いだのです。
また、ホテルの宿泊客だった女児が、首を絞められて気を失っているのがホテル地階で発見されたり。
こんなことが重なり、ネヴァーシンクは徐々に評判を落とし、また、飽きもあったのでしょう、客も減ってしまい、いまや廃業寸前まで追い込まれていました。
本作は、このようなネヴァーシンクにまつわる様々なエピソードが、1950年から2012年というスパンにかけて描かれていくのです。
さて、問題はミステリのことなのですが、ご紹介したとおり、児童失踪事件が語られるのですが、物語は必ずしもこの事件にフォーカスして進んではいかないのです。
むしろ、事件とはまったく関係のない、ホテルにまつわるエピソードの方が多い位。
例えば、盗癖があるホテルのメイドの物語とか、浮気に走ろうかと心を揺らすホテル経営者の妻の話とか。
それぞれの章は、まるで連作短編のような感じすら与えます。
私は、一応ミステリとして本作を読み始めたため、一向に進展しない謎解き、失踪事件にさして重点を置かない展開に困惑してしまい、「これは一般小説なんじゃないか?」と思い始め、ほとんどその様にしてページをめくっていきました。
もう、失踪事件の謎解きをしようなどという気持ちもすっかりなくなっていたのです。
物語のラストで、一応ですが、この失踪事件の解決が示されはするのですが、それだって本当にそれが真実なのかどうかは担保されるわけではありません。
ミステリとしては大変異色ですよね。
通常のミステリを期待して本作を読むと違和感を抱いてしまうかもしれませんが、古いホテルを巡る人間模様としてはそれなりに読ませる作品なのではないかと感じました。
(レビュー:ef)
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