だれかに話したくなる本の話

仕事がデキるかどうかは「誰にでもできそうな仕事」にあらわれる

「器が大きな人」というと、どんなイメージを持つだろうか。

自分のためではなく、他者のために行動ができる人。どんなことがあっても落ち着いて的確に判断できる人。仕事面では、どんな仕事に対してもしっかりと成果を出し、人の話をしっかり聞いてマネジメントできる人。
そんな人間像を思い浮かべるのではないか。

伊藤忠社長、駐中国大使を歴任した丹羽宇一郎氏は新刊『人間の器』(幻冬舎刊)で、人間としての器を広げ方について書きつづっている。ここでは、その中から、経営者から新人まで器を広げる仕事の仕方や、人間としてワンランクアップするための考え方を紹介しよう。

■インプットだけではなく、アウトプットも大事にする

大事なことを忘れてしまい、大きなミスをしてしまった。そうならないためにはどうすればいいのか。

丹羽氏は、重要だと感じることを色々な形でアウトプットしているという。たとえば、人に会って話す、講演をする、ノートにつける、本や雑誌の原稿に書くといった具合に。つまり、「忘れてはいけない」と思うものを取り出して反芻することで、脳に刻まれるのだ。

アウトプットは記憶の定着率を高めるだけではなく、工夫をすることで、頭の中にある知識や情報を整理してくれる効果があるという。
新しいことを考えるときに、まずはアウトプットしてみる。そうして頭が整理されていくと、新たな組み合わせが見つかってアイデアが生まれやすくなる。頭の中だけで発想するのではなく、アウトプットしながらやってみると、成果が出るはずだ。

■現場をよく知ることが「生きた知恵」を生む

読者家であることで知られる丹羽氏だが、「読書は人間をつくる上では欠かせない」としたうえで、知識だけでは十分ではなく、知識という燃料を燃やして人生に生かすには、経験も必要であると述べる。

とりわけ仕事において、現場を知ることは大事だ。これは経営者をはじめ、いかなる立場の人間にも言えること。頭の中だけで知識と情報をつなぎ合わせ、組み立てても、それは所詮、机上の空論だ。経営者がそんなことをすると、まともな経営ができなくなると指摘する。

実際、丹羽氏は現場主義を貫いてきたという。現場で経験して得た情報と、それをフォローする知識。それは2つの眼のようなもの。読書と経験は相まって、初めて生きた知恵になるのだ。

■人間の器が表れる場所とは?

一見、「役に立たない」「無駄」だと思える雑務。なんで自分がこんな仕事をやらされているんだろう…と思うこともあるだろう。

しかし、そういった仕事も、後から振り返ると人生に生かされていると気付くものだ。丹羽氏自身も会社に入りたての頃は、膨大な書類の作成を命じられ、「なんでこんな仕事を俺がしないといけないんだ」と不平不満を抱いていたそうだ。しかし、その作業を繰り返していくうちに、計算が速くなり、仕事の中身も分かるようになった。不満だった仕事にも、ちゃんと意味があったのだ。

誰にでもできそうな仕事でも、仕事に対する真剣さや努力の注ぎ方で、結果はかなり変わってくると丹羽氏は述べる。机を拭く、一枚のコピーを取る。そんな些細なことにも、仕事の出来、不出来といった質の差がはっきり表れるという。
面倒に思いながら雑に仕事をしていれば、仕事の本質には触れることができない。自分と仕事の器を広げるのは本人の心がけなのだ。

 ◇

本書は読んだその時から自分を変えてくれる至言が詰まっている。また、丹羽氏の体験談もふんだんに織り交ぜられており、具体的なイメージを持って読むことができるだろう。

人としての器を広げるためにはどうすればいいのか。本当の意味で器を大きくするための、心のありようが説かれている一冊だ。

(金井元貴/新刊JP編集部)

人間の器

人間の器

本当の意味で器を大きくするための心のありようや生き方について詳述。

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