だれかに話したくなる本の話

【「本が好き!」レビュー】『ドクター・アダー』 K.W.ジーター著

提供: 本が好き!

本書が執筆されたのは1972年なんですが、全米の出版社から出版拒否!
イギリス、フランスの出版社(当時フランスではほぼどんな本でも出版されたのだそうです)にも出版を申し込んだのですが、それも拒否。
まあねぇ。エグい内容ですからねぇ。
ようやく、『ニューロマンサー』が出版された1984年になって本書も出版されたのだそうですよ。
で、どんな内容かというと……。

物語の舞台はロスアンジェルス。
ここでは娼婦たちが客の異常な性的嗜好を満足させるために肢体切断その他の身体改造をしているのが当たり前という狂った世界です(そうした方が客がつくのだとか)。
んで、そんなとんでもない手術を請け負ってカリスマ的存在になっているのがドクター・アダーなのです。

ただ、アダーは、過去、モックスという通信ネットワークを支配している野郎の性器をぶち切るようなことをしたため、その恨みを買っており、モックスの息がかかったテロ集団(?)につけ狙われてもいます。

一方、卵農場で労働者用の売春宿の管理をしているリミットは、父親から相続したヤバいブツをドクター・アダーに売りつけようと考え、卵農場を辞職してL.A.に向かいます。
そのブツとは、『閃光(フラッシュ)グラブ』というハイテク義腕なのです。
これは、装着者の中枢神経からエネルギーを得て、視覚、聴覚、熱感知などの能力を飛躍的に増大させるばかりか、致命的な高周波振動を発することができる殺戮兵器でもあるのです。

現在、残存している『閃光グラブ』はすべて機能を停止させられており、使用可能なものは残っていないはずなのに、リミットが持ち込んだ『閃光グラブ』は生きているんですねぇ。
どうしてもこいつが欲しいアダーは、リミットから買い受け、また、自分の助手が殺されていたこともあり、リミットを助手に雇うのです。

その後、モックス配下の武装集団が一斉蜂起し、町中の娼婦やヒモを殺し回り、アダーにも攻撃を仕掛けてきます。
追い詰められたアダーは、かつて一緒に仕事をしていた老医師のもとに逃げ込み、自分の腕を切断し、『閃光グラブ』を装着したのです。
そして、モックスとの一騎打ちになだれ込むという展開。

という、まあ、猥雑で暴力的でショッキングな作品なんです。
作中にはセックス、暴力、ドラッグ、人体切断その他エログロ満載なので、こりゃ出版社も出版を拒否するわなぁという問題作であります。
まあ、今の私たちの目から見ればそれほど酷い作品とは思えませんが、1970年代だとこれはちょっとムリだったんですかねぇ。

本作については巻頭にフィリップ・K・ディックの序文が付せられており、ディックは本作を絶賛しているのです。
作風的に、確かにディックに通じるようなところも感じられます。
また、現在のSFでは当たり前になっている身体改造、電脳空間への侵入などのアイディアも用いられており、1972年にこれらのアイディアを使ったというのは確かに早いわけです(冒頭に書いたとおり、電脳空間にジャック・インするというサイバーSFの嚆矢とも言われるニューロマンサーが出たのが1984年ですからねぇ)。

というある意味伝説的なSFなのであります。
今ではあんまり読まれていない作品ではないかと思いますが、SFファンであれば一度は手に取ってみられてもよろしいのではないでしょうか。

(レビュー:ef

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ドクター・アダー

ドクター・アダー

ロサンジェルスの暗黒街に君臨する悪徳外科医ドクター・アダー。
その華麗なメスから生まれる奇抜で醜悪な肉体改変が、この街を肉欲と悪徳の都に変えた!
一方アダーを敵視する一派も勢力を拡大している。
そしていま、アダーにひとりの客が訪れた―アメゾナの養鶏場で働く青年リミットが携えてきた伝説のハイテク武器は、この戦いの様相を一変させるが…SF史上最も危険な傑作登場!

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