【「本が好き!」レビュー】『エル・グレコ祭壇画物語 』西川和子著
提供: 本が好き!いつもなら真っ先に目に入るのはタイトルだが、視線は大勢の群衆に囲まれた虚ろな目のキリスト画に釘付け。
特に熱心な信者というわけではないものの、この瞬間を切り取った絵画を目にするたび(自分達の保身の為に「神殺し」をしてしまった人間の愚かさを未来永劫恥じて行け)と責められている様で、なんとも心苦しくなる…。
見開きの数ページにカラーで掲載されたグレコの作風は、かなり独特で
人の身体が細く引き伸ばされていて(著者曰く)上昇している様に見える。
赤も黄色も青も素晴らしい。なんと色彩豊かなんだろう(本文より)
鮮やかというより、ワントーン抑える事により光を強調している感じを受けた。
改めて心落ち着けて眺めてみれば、なんて美しい作品なんだろう。
以前旅先で教会を訪れた時、初めて「祭壇画」と呼ばれる絵画を観たが、その時は、私のなかで(全部同じ人が描いた)というイメージしかなく、ただただ絵のシーンと筆の静謐さと精巧さに圧倒されるだけだった。
しかし画家を知る事によって、作品と自分の間にあった深い溝が無くなった様な気がする。
美しい宗教画を描き続けたグレコは裕福な家の子で、画家の多い地に生まれたうえ、才能もあり、トントン拍子に生きてきた人、というイメージ。
修行先のヴェネチアでも、素晴らしい師匠に見出され、実力も充分についた所で教会への紹介をしてもらう事が出来、存分に実力を発揮した。
彼の絵の購入者に「肖像画」を描いて欲しがるお金持ちが多くなってきた、と言う事は一世風靡した人気画家だったんだろうなぁ。
彼の一生で感動的な伝記は書けないかも知れないが、彼の残した絵の中で聖者は生き続ける。
それこそ画家の本望とする所だろう。
著者の「エル・グレコ」に対する研究の熱心さと、柔らかい語り口は、硬くなりがちな内容をほろほろと優しく解いてくれ、大変読みやすかった。
(レビュー:MOTO)
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