だれかに話したくなる本の話

【「本が好き!」レビュー】『夜の谷を行く』桐野夏生著

提供: 本が好き!

元赤軍派メンバーだった西田敬子は、総括と言われるリンチから逃げ出したひとりだった。刑期を終えた敬子を待っていたのは、早すぎる両親の死、妹の離婚、親戚との絶縁だった。私立小学校の教師をしていた経歴から、学習塾を開いていたが受験ブームの波にのまれ、経営を断念した。今では月曜日から木曜日までジムに通うのが日課となった敬子に、姪の佳絵から結婚式に出席してほしいとメールが届いた。

ある日、元メンバーのひとりから、フリーライターの古市が話を聞きたがっているが、電話番号を教えても良いかという連絡があった。敬子は過去と決別し、二度と昔の仲間に会うつもりはなかったのだが。そんな時、永田洋子死刑囚死去のニュースが報道された。やがて、永田洋子の偲ぶ会をするという通知が届いた。敬子が決別したいと思っている過去に否応なく直面していく。

姪の結婚を機に、敬子の過去を話さなければならなくなった。そのことで、妹だけでなく姪とも関係が悪化する。山岳メンバーだった頃の総括を思いだしたり、かつて恋人だった久間と再会したり、ともに逃げ出し今では名前も家族も捨てたメンバーに会いに行ったりと忘れたい過去と直面していく中で、心に秘めていた事実から解放される。

赤軍派といえば、浅間山荘事件を思い出す。子どもだった頃、遊びに行った友達の家で山荘の壁に大きな鉄球がぶつけられるシーンを見た。友達のお母さんが、「ヨカッタ~」と言っていたことが記憶に残っている。子ども心に良かった!と思ったけれど、赤軍派のことをよく知らなかった。桐野夏生氏の小説の中でもそれほど、詳しくは語られていないが総括と称した残虐なリンチが行われていたことは分かった。永田洋子のジェラシーからリンチが行われたと、テレビで見聞きした覚えがあるがどうやらそれだけではなかったらしい。

地味に目立たないように生きようとした敬子が、過去に起こした過ちのせいで失ったものの大きさを想像した。元赤軍派のメンバーだった人たちが、年を重ねどのような日々を送っているのか。身分を隠し、ひっそりと生きている人もいるのかもしれない。

(レビュー:morimori

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夜の谷を行く

夜の谷を行く

39年前、西田啓子はリンチ殺人の舞台となった連合赤軍の山岳ベースから脱走した。

5年余の服役を経て、いまは一人で静かに過ごしている。

だが、2011年、元連合赤軍最高幹部・永田洋子の死の知らせと共に、忘れてしまいたい過去が啓子に迫ってくる。元の仲間、昔の夫から連絡があり、姪に過去を告げねばならず、さらには連合赤軍を取材しているというジャーナリストが現れ―女たちの、連合赤軍の、真実が明かされる。

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