【「本が好き!」レビュー】『デトロイト美術館の奇跡』原田マハ著
提供: 本が好き!原田マハの作品は『ジヴェルニーの食卓』と『サロメ』を読んだことがある。
どちらも好きな絵画を題材にしていたので手に取ったが、小説としてはあまり印象に残っていなかった。
本作はデトロイト美術館DIAを舞台にした話ですが、実話をもとにした話だからか印象に残るものがあった。
表紙になっているセザンヌが夫人のオルタンスを描いた「マダム・セザンヌ」を中心にした四つの話で構成されている。
まず最初に登場するのは、溶接工だった父と同じく十五の頃からずっと溶接工として働いていたデトロイターのフレッドです。
不況でリストラされてからは年金暮らしだが、妻に先立たれて寂しい暮らしをしています。
彼の妻ジェシカはいつでも明るく働き者だったが、フレッドが職を失ったのをきっかけに彼をDIAに誘う。
アートの素晴らしさに目覚め妻と共に美術館に通う中で、お気に入りとなった作品がマダム・セザンヌだった。
ジェシカが末期癌であることがわかり、最後に二人で出かけたのもDIAだ。
父も妻も病に倒れ、無保険のために医療費が払えないというアメリカらしい話も出てくるが、夫婦の穏やかな愛情が伝わってくる。
そして市民の誇りであり愛される美術館の存在が浮かび上がってきます。
次に登場するのはロバート・タナヒル、実在する人物だ。
裕福な一族で、厳選した美術品を自宅に飾って静かな生活をしていた。
若い頃からコレクターとして有名で、DIAに数々の寄贈をしていた。
セザンヌが描いたリンゴの静物画を見て、いびつな形なのにリンゴの酸味ある味を感じたそうです。
ピカソやゴーギャンもある自宅のコレクションの中で、一番目だつ場所に飾られていたのがマダム・セザンヌだった。
1969年に亡くなるまでマダム・セザンヌは彼と共にあり、その後DIAに遺贈される。
話は再び2013年に戻り、DIAのキュレーターであるジェフリーが主人公となります。
学生時代から研究し続けているセザンヌの作品であるマダム・セザンヌを見に何度も訪れたDIAに就職し、そこが彼にとって特別な美術館となる。
だがデトロイト市の債務が超過して破産状態となり、美術館の存続も危うくなってしまったのだ。
美術館の近くのカフェを通じて、デトロイト市ではなく市民の財産である美術館を守ろうという動きが広がっていく。
市民の生活も文化も両方守らなければならないという決意が素晴らしかった。
(レビュー:DB)
・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」