だれかに話したくなる本の話

【「本が好き!」レビュー】『百年の轍』織江耕太郎著

提供: 本が好き!

祖父母の時代に秘密が隠されていた!さぁ、そのことを身内で最初に知るのは誰でしょう?

大分県日田市が舞台の小説です。私が大分県に行ったのは、20代中頃、約3年間福岡県に住んでいたときです。
福岡県大橋の自宅から鹿児島県まで単身ドライブしました。出発した時間が午後だったため、自宅に帰って来たのが翌日の明け方だった記憶があります。そのまま勤務する会社に出社しました。走行距離にして約840キロ。鹿児島からの帰りは宮崎→大分経由で日田を通過した記憶があります。時間帯は夜、車中のラジオで横浜ベイスターズの優勝が決まった頃でした。もし、日中だったら日田杉等、原生林がもっとクリアにイメージができたに違いありません。

前置きが長くなりましたが、本書に出てくる第二次世界大戦で兵隊として戦地へ出征する人、それを見送る人、生きて帰れないかもしれない恐怖と背中合わせの時代は、現代よりも人と人とのつながりが大切で情に溢れていて濃いと感じました。イメージする情景はモノクロな昭和時代…。

勿論のこと、人によりますが、今も昔も男女関係が複雑なパターンから生まれてくる子の場合、子孫までその影響を受けるケースがあります。読者でそのような環境に身をおいた方々の比率は不明ですが、そういう環境に身をおいた家族が、どのような心情になるのか感じることのできる作品です。一般的な日常生活と違うため、それが面白く、興味をそそります。愛情の琴線を感じます。

3代に渡った物語ですが、孫が昔に興味を持てば祖父の時代位までは人伝いに調査すればわかる(複雑な関係の起因がわかる)位の期間(この本のタイトルの100年の轍)になり得ます。孫が祖父や祖父の友人、祖母の秘密を知ってしまう。父はその秘密を知らずに死んでしまったと孫(子)が認識する、知ってしまう。あなたはどういう気持ちになりますか?さらにその秘密を孫の妻のほうが先に知っていたら…。秘密を抱えて誰にも話さずに我慢できるでしょうか?  読み進めれば読みすすめるほど、深みが増してドキドキしてくる作品です。
 山下達郎の「クリスマス・イブ」を聴きながら丁度この本を読み終えました。
 歌詞に、この本にちょうどいいフレーズがありました。    心深く、秘めた想い ~(中略)~
 必ず今夜なら言えそうな気がした 

こんな場面が何度かあります!夜とは限りませんが。

(レビュー:営業イノベーション

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本が好き!
百年の轍

百年の轍

太平洋戦争中に大陸で再会した二人の幼馴染矢島泰介と岩城智也は、必ず生きて帰り、ともに助け合って生きようと誓う。

戦後の高度成長期、二人の育った日田の林業は最大の危機を迎え、二人は仲間とともに実りのない戦いに挑む。

だが、戦後日本の復興政策によって、国産杉材などの林業の衰退は止められない。

木材輸入自由化政策は着々と進められていく。

もう一人の幼馴染鬼塚良一もまた、法案をめぐり暗躍。

そんななか、鬼塚の失踪事件が起こる。

時代は移り、日田、福岡、東京と離れて暮らす子孫たちは期せずして日田に集まり、彼らの複雑に絡んだ糸が解きほぐされ、物語は驚愕の最終章へ。

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