月7万円の収入で十分 74歳牧師の貧しくも豊かな暮らし
欲しいと思ったものをすぐに買えて、行きたい場所に行ける。
経済的に余裕のある生活は魅力的だが、富は味わえば味わうほど「もっと、もっと」とさらなる富を求める気持ちを掻き立てるし、お金がなくなることへの恐怖感を無意識のうちに植えつける。
経済的な豊かさを求める生き方は否定できるものではないし、その価値観を捨てることは容易ではないが、お金は「なければないで、それなりに楽しく暮らしていける」ということは覚えておきたいところ。幸せに生きる条件は何も物欲を満たすことや、移動の自由を謳歌することだけではない。
■「もっとお金がほしい」から脱却して豊かに暮らす生き方
そんなことを教えてくれるのが、牧師であるミツコさんが自身の半生と今の暮らしぶりをつづった『74歳、ないのはお金だけ。あとは全部そろってる』(すばる舎刊)だ。
ミツコさんは牧師の家庭に生まれ、牧師の夫と結婚してから自らも牧師になった。人生をキリスト教とともに歩みながら、主婦として4人の子どもを育て上げた。現在は子どもたちは独立。夫と死別して以降は公営住宅で一人暮らしをしている。
収入は二ヶ月に一度、約14万円の年金が主だ。月にすると7万円ほどだが、それでも本人は「けっこうお金持ちです」と、より多くを求めることはしない。この生き方は牧師としての生活が培ったものだ。
牧師の家庭に生まれ育ったので、貧乏には慣れています。父は、家にお金がなくても、「うちよりもっと困っている人に分け与える」と思っていた人でした。(P41より引用)
結婚した夫も同じようなタイプだったそう。こんな考え方に長く触れていたからこそ、「もっともっと」というよりも、あるものに感謝して、その中でなんとかする習慣や、お金がないことそのものを楽しむ生活スタイルが身についたのだとか。
「死んだ後、天国にお金は持っていけません」(ミツコさん)
■つつましく暮らす。でも「ケチ」にはならない
クリスチャンとしての人生が今の生活に結びついたのは確かだが、「お金がないことそのものを楽しむ」ための工夫は宗教に関係なく参考になるはず。
生活を楽しむ手段でもあり、同時に節約の手段でもあるのが、ミツコさんが「一番お金がかかり、一番節約できる」としている食費だ。3食手作りするのが、お金もかからず、なおかつ自分の好きな味付けにすることができていいのだとか。
ただし、お世話になった人にごちそうしたり、人をもてなしたりなど、人付き合いにはできる範囲(5000円ほど)でお金を使っている。7万円という収入を考えると痛い額だが、次の月に節約して調整している。
「つつましく暮らす」のと「ケチになる」のは違う。自分にばかりお金を使うのではなく、たまには他人のためにお金を使うのは、お金がなくても豊かに暮らすための秘訣なのだろう。
何をするにもお金がかかる私たちの暮らしだが、「できるだけたくさん稼ぐのが、幸せな人生への唯一の道」だという考えには凝り固まらないようにしたいもの。上ばかり見るのではなく「今この瞬間」を楽しみたい人には、ミツコさんの暮らしは魅力的に映るのではないか。
(新刊JP編集部)