社員だけではなく社長や幹部にも 1対1の「成長対話」の重要性
自分で考え行動し、結果を出せる社員の育成。人を育成することが出来る社員の育成。
これは企業にとって最重要課題だ。
しかし、その仕組みづくりは簡単ではない。単純に育成といっても、人事制度として、目標管理、評価、処遇など様々な要素が絡み合っていく。理論だけではなかなか難しい。
そこで参考にしたいのが『経営ビジョンを実現し、社員一人ひとりが幸せになる 自創経営「人材育成」の仕組み』(日本実業出版社刊)だ。360ページの大著である本書は、22年間に500社以上で導入された「自創経営」の実践出来るノウハウをまとめた一冊である。
著者の東川広伸氏へのインタビュー後編では、「自創経営」を受け継ぐまでの父・鷹年氏との「スパルタ」な日々を聞きつつ、中小企業経営者へのメッセージをいただいた。
(新刊JP編集部)
■「自創経営」を受け継ぐための試練は超スパルタ!?
――「自創経営」は父親の鷹年さんが創始者であるとうかがっています。東川さんはこの経営をどのように学んでいったのでしょうか。
東川:私は26歳まで電気工事の職人として働いていまして、その時はかなり不安定な生活を送っていました(苦笑)。ちょうどその頃、私の父が「自創経営」について講演をしたり、本を出したり、あとはビデオを出したりしていて、それを一度聞いてみたところ、感銘を受けまして。息子として父の役に立ちたいと思い、後継者を志したいと父に伝えたんです。
ただ、それからが大変でした。自創経営の講演ビデオを何千回と見ていても、結局私には実績がないわけですから、自創経営のコンサルタントとして活動するためには、とにかく実績をつくらないといけないと。そこでリクルートの求人広告の代理店に中途入社し、営業マンとしてまずは1位を目指しました。
――厳しい試練を課せられたわけですね。
東川:もともと職人だった私にとっては厳しかったですね。トップになれなかったらお前には資格がない、とまで言われましたから。そこで一から営業のやり方を学び、お客様に頼りにされ、喜ばれるにはどうすればよいのかを毎日考えて動きました。そして徹底的に自分の行動を変え続けることで何とか1位を取ることが出来たんです。
また、21世紀は女性が活躍する時代だということで、フランスの化粧品を仕入れて販売する会社に、店舗を運営する営業部長として採用していただき、そこでも結果を出しました。ここでは本書でも取り上げているランクUPノートという人材育成ツールを使って、毎月の店舗の売上目標、新規顧客の獲得人数、一人一人のお客様にお買い上げいただく品数など、目標管理を実践しました。
さらに、店長と私の1on1ミーティング、これはつまり本書の「成長対話」になるのですが、それを行いまして、店長、スタッフ一人一人の育成を体験し、全店舗単月黒字化を達成することが出来ました。
――東川さんの修行はさらに進むのですか?
東川:はい。さらにもう一社、インテリア関連の商社なんですが、すでに自創経営を導入している会社がありまして、東京から大阪に進出するところで、私の父とその会社の社長が話し合いをして、私に大阪営業所の営業所長を任すということになったんです。「本社の社員にすごいと言われるだけの実績を出してこい!」とね。
本当にゼロからスタートで、東京本社の社長にご挨拶に行って、初年度の目標を聞いたら売上5200万円だ、と。その根拠もよく解らないままの始まりでしたが、幸い仕入れ先は本社から紹介してもらいましたが、関西での市場は自分で開拓していき、1年目から目標を達成し、さらに翌年度の1億2000万円ほどの売上見込みが立ったところで、父親から戻ってこいと言われ、父のカバン持ちをしながら、いろんな会社の自創経営への取り組みをサポートするようになったというわけです。
――お父様の厳しさもさることながら、東川さんの成果に対するコミットメント度合いがすごいですね。
東川:本の冒頭にも書きましたが、誰でも行動はする。大切なことは結果を出すという意志を持って行動することです。「やれば出来る」ではなく「出来るまでやる」。これは私の体験からも本当に大切なことだと思います。
――また、要所で「自創経営」のメソッドを使って、様々な会社のスタッフに成長を促してきて結果を出してきている点もうかがえます。その中で東川さんは人材の「成長」をどのように感じ取ってきたのでしょうか。
東川:成長とは、出来なかったことがある程度出来るようになる変化、そしてある程度出来ることが、もっと出来るようになる変化の2つが要だと思っています。
職種や役職など人にはそれぞれの立場があり、その立場に応じた役割があって、出来るようになる必要があることもそれぞれ違うんです。だから自創経営では、社員それぞれが自分の立場を正しく自覚し、その立場に応じた役割を果たすために何が出来るようになればいいのか、いつまでにどこまで出来るようになればいいのかを、セルフマネジメントしていき、成長という変化をしていくことが求められます。
ただ、人は他者からの助言がなければ未だ出来ていないことの気づきも得られにくいでしょうから、先輩や上司との1on1ミーティング、つまり成長対話が必要となるんです。成長対話の本質は「気づき」を得ること。私自身、今も父と成長対話を行っていますが、そこで毎回、自分に何が出来るようになる必要なのかを気づかせてもらっています。
――年齢を重ねて地位も昇っていくと、自分に気付きを与えてくれる人も少なくなるように思います。助言してくれる人がいなくなるというか。
東川:それはあるでしょうね。いろんな会社の社長さんと話していると、社内に相談相手がいないという人がいるんです。弱みを見せられないと思っているのかもしれません。そういう場合は社外の人であったり、コンサルタントという立場の人にアドバイスを求めてもいいのかもしれません。
ただ、そのような人だけではなく、お客様と接している現場の社員や、商品を製造している工場スタッフなど、現場で働いている人と1on1をすると、いろんな経営課題に気付きます。さらに、経営課題だけではなく、社員一人一人の成長課題にも気づくことが出来るはずです。これは社長や上司の立場にとっては部下・後輩の育成課題となります。人が人を育成するための体制であり、土壌をしっかりつくっていけば、会社全体がボトムアップする。その課題に対してどう取り組んでいければいいのかということも分かるので、現場の社員と対話をすることが社長をはじめとした上司・先輩も気づきを得られ、その人自身の成長のきっかけになるという意味でも成長対話は極めて重要です。
――この「自創経営」を、今後どのように広げていきたいと思っていますか?
東川:この本を一つのきっかけにしたいと思っています。私と父、体は2つしかありませんが、いろいろな会社の人材育成、人事制度改革でお役に立てるようにしていきたいですね。地道に少しずつ広げていくことに尽きるかなと。
――セルフマネジメントが出来る組織になるためには、ある程度の長い時間はかかります。人材育成を成功に導くにしても、それなりの粘り強さは必要でしょうね。
東川:おっしゃる通りです。やはり自創経営の運営は相応の年数、だいたい8年くらいはかかります。ただ、ある特定のチームで自創経営に取り組んで1、2年に成果が出て、定着したというケースもたくさんありますから、そういう成功体験を積み重ねていただき、社内に広めていって欲しいなと思います。
――コロナ禍の影響はこれからさらに出てくると言われています。中小企業の皆様にエールをお願いします。
東川:今、資金繰り表や月次の決算書を見ると泣きそうになる。手が震える。そういう方もいるでしょう。厳しい現状だからこそ将来の会社のあるべき姿を描くのです。こういうお客様に喜んでもらうんだという商売のあるべき姿、事業のあるべき姿、そして会社のあるべき姿を社長自身がまず想像し、社員と多く語り合い、社員の想いも重ね合わせた経営ビジョンを描いていってほしいなと思います。
今の現実は厳しいけれど、この危機を乗り越えさえすればこういう姿になるよという経営ビジョンを描くことで、社員と一緒にワクワク出来る心の状態をつくっていただきたいですね。また、それは社長と全社員が健康であってこそですから、お互いに心身ともに健康で過ごしましょうとお伝えしたいです。
(了)