『魔性の子 十二国記 0』小野不由美著【「本が好き!」レビュー】
提供: 本が好き!絶筆していたと思っていたシリーズの新刊が出た。
なんと18年ぶりだそうで、月日の流れを感じてしまいました。
せっかくなので最初から読み直そうと思います。
当時集めたのは講談社だったので、原点となる話らしい本作は初読になります。
時間の流れを取り戻せるのかドキドキしながら読みました。
話の舞台は海辺の町にある男子校です。
広瀬という名の大学生が教育実習生として母校へと帰ってきた。
彼が卒業して数年の間に校舎は移転し制服も変わってしまっていたので懐かしの母校というほどでもなかったが、教師陣がほぼそのまま残っているという設定です。
一番お世話になった化学の先生の下での修行が始まる。
40人いるクラスの中で、ひとり異質の空気をまとっている少年がいた。
高里という名の彼は物静かなタイプだったが、明らかにクラスの中で孤立していた。
それは彼がまだ幼い頃に起きた神隠しの事件と、その後に彼の周りで起こるようになった事故のためでもある。
学校の中でも、そして家庭でも居場所がないのは辛いだろう。
だがそれに反発するでもなく積極的に居場所をつくろうとするわけでもない。
それを異質ととるのか諦めととるのか、真相は徐々に明らかになっていく。
社会に溶け込めない自分を高里に重ねた広瀬は、2週間という短い実習期間の中で高里と積極的にかかわろうとします。
その行動には異質な存在である彼と同化したいという願望を感じられた。
周りと自分を切り離すことで他人とは違う特別な存在であると思いたいのかも。
そういう意味では教師という職業は彼に向いているのかもしれない。
高里がクラスの中で孤立を深め、それに対応するかのように事故が起こり。
恐怖にかられた周囲の反応に報復は苛烈になっていく。
自分たちと異なるものを排除しようとする集団心理がリアルに描き出されていた。
物語が終わりに近づいていくにつれて、どんどん血生臭い事件が続き死者が増えていく。
そして「キ」を探しているという幽霊のような少女が登場し、現実味が薄れていきます。
最後に異界への扉が開かれたとき何が起こるのか。
いろんな意味で人間の心の醜さを浮き彫りにしていたと思う。
それがあるから、ストーリーがありえないものであっても現実感があるのでしょう。
還るべき場所を持たないということが一番のホラーなのかもしれない。
(レビュー:DB)
・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」