新・魔獣狩り12
完結編・倭王の城 上
著者名:夢枕 獏
出版社:祥伝社
定価:860円
ISBN-10:4396208839
ISBN-13:978-4396208837
新・魔獣狩り13
完結編・倭王の城 下
著者名:夢枕 獏
出版社:祥伝社
定価:860円
ISBN-10:4396208847
ISBN-13:978-4396208844
430万部の大ヒットシリーズ、ついに完結!
―本作『新・魔獣狩り12 完結編・倭王の城 上』『新・魔獣狩り13 完結編・倭王の城 下』でついにサイコダイバーシリーズが完結します。このシリーズを構想されたのは今から33年前とのことですが、今振り返ってみてどのような感想をお持ちですか? 夢枕 「結果として33年かかってしまいましたが、書き出した時はそんなにかかるとは思っていませんでした。“まあ終わるだろう”という気持ちだったんですけど、途中からは“完結するまで俺は生きているのかな?”と思ったこともありましたね。“これは長生きしないと終わらないぞ”と。だから率直なところでいえば“完結するまで生きていてよかったな”というのがあります」 ―このシリーズを構想する際の最初のひらめきはどんなものだったのでしょうか。 夢枕 「最初は世界で一番高い山に登る男の話を書こうとしたんです。でも当時、エベレストはもう登られてしまっていました。そこで、地球上で世界で一番高い“未知の山”がある可能性を探ったんですけど、なかった。衛星写真で地球の全表面を撮られてしまっていたので地球上にわからない場所はもうなかったんです。だから世界一高い山を地球上にリアルに設定することは無理だということがわかりまして、それならば人の意識の中に世界一高い山がそびえていて、その山を登る話にしようかなと思ったんです。 そんなことを考えている時に、今はもう祥伝社を辞められたのですが名倉さんという編集者の方が僕のところに来て、祥伝社の『ノン・ノベル』で一本書いてみませんかというお話をいただいたのでその話をしたんです。そうしたら“それ冒険小説になりませんか?”と言われたんですね。それでできたのがこのシリーズなんですよ。 でも最終的には、意識の中の山を登る話でもなく、空海というお坊さんのミイラの脳に潜る、これを小説ではサイコダイビングと呼んでいるんですけど、空海のミイラの脳にサイコダイビングする話に変わっちゃったんです。 空海は1000年以上前に亡くなっているんですけど、未だに高野山でミイラになって生きているという伝説があるんですよ」 ―「サイコダイビング」そのものが最初の閃きというわけではなかったんですね。 夢枕 「ええ、最初は“山”でしたね。サイコダイビングそのものは僕のアイデアではなく、アラン・E・ナースが書いた短編にもありますし、日本でも小松左京さんが『ゴルディアスの結び目』というお話で書いています。それも人間の脳の中へ潜っていく人間の話なんですけど、読んだ時にすごくびっくりしました。それでこの山の話の方と結びつけた感じですね」 ―「サイコダイビング」という概念が広まったのは夢枕先生の功績が大きいかと思いますが、先生ご自身はこの概念がここまで広まることは予想していましたか? 夢枕 「書いている時は夢中でそこまで考えていなかったですね。でも長くやっていましたので、その間に自然とそういう考えや概念が出てきたのではないでしょうか。途中からは人間の脳というよりは電脳世界に入っていくような話が多くなりましたよね」 ―夢枕先生の作風はSF、または伝奇小説というだけでは括ることのできない特異なものですが、そのような作家としての個性が確立されたのはいつごろのことなのでしょうか。 夢枕 「わかんないなあ(笑)あったといえば初めからあったと思うし、わからないですね。ただ自分で作家としての個性が確立したと思ってしまうと、書くことがつまらなくなってくるんじゃないかという気はしていますね。 自分の個性を確立しようと思って書くわけではなく、その都度自分の好きなことを一生懸命やっているということで、それはいろんなジャンルでものを創って活躍されている方はみんなそうなのではないでしょうか。“まだこういうキャラの芸人は出ていないよな”ということで自分のキャラクターを作っていくような個性の作り方はしていないと思うんですよね」 ―では、まだご自身でも個性が確立されたとは思っていらっしゃらない。 夢枕 「何らかの個性はあると思うんですけどね。いくつか自覚症状みたいなものはありますけど、確立というものとは違うと思っていて、自分としてはまだ発展途上という感じです。いくつか空けていない引き出しや小出しにしかしていない場所がまだあるので、そちらの方から今後もう少し何か出せるんじゃないかという気はしていますね」 ―夢枕先生の作品には密教、または空海を取り上げたものが何作かありますが、先生は密教にどのような魅力を感じていらっしゃるのでしょうか。 夢枕 「空海に関しての魅力というと、日本が最初に生んだ世界人だという点ですね。当時の日本というのは小さい国の寄り集まりで、基本的にはその中のことしかみんな考えていないんですよ。しかし、空海は日本の中の小さい国だけではなくて、倭全体のこと、唐のこと、天竺のこと、つまり世界地図を頭に描きながら自分という存在について考えることのできた人間だったと思うんです。 また、宇宙観というものをきちんと持っていた人だとも思います。宇宙観というのは“宇宙とはどういうものか、宇宙の中で人間というのはどういう存在か”ということ。それを当時の知識レベルのなかではきちんと認識していた人だと思いますね 空海は人間のことよりも宇宙のことを考えていた節があるんですよ。人間という哲学的存在、あるいはその生物学的存在と宇宙との関係をちゃんと頭の中に描いていたんだと思いますね。それは今の宇宙観に非常に近いと思います。それが魅力ですね」 ―ご自身の作品の中に空海を登場させたというのも、先生本人が好きな人物だから、といいうことでしょうか。 夢枕 「そうですね、空海は相当昔から好きだったんですよ。この本を最初に書き出したのが27歳くらいだったんですが、その時からもう空海は登場していました。空海というか空海のミイラが、ですが。空海というものが自分のなかで体積を持ち始めたのはそれより10年くらい前でしたね」 ―聞くところによると10歳のころから作家になろうと思っていらしたそうですが、夢枕先生が作家になろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか。 夢枕 「きっかけはですね、僕がまだ字を覚える前の話なんですけど、うちの親父が僕が眠る前に話をしてくれていたんですよ。僕はそれを寝ないで話を聞いているわけです。でも親父は次の日も仕事があるし、いつまでも寝ないガキの相手はしていられないじゃないですか。だから“これでおしまい”って言うんですけど、僕は“その続きはどうなるの?”って聞くんです。そうすると“続きはこれこれでこうなりました”と話してくれる。でも僕はまた“その続きは?”って聞くんです。そうしたら親父がだんだん嫌になってきて“もうない”って(笑)そうなった時に“じゃあその続きは僕が喋るよ”って言って、僕は物語の続きを字で書かないで喋っていたんですね。もちろんその時は作家という職業は知らないので、作家になりたいと思うこともないんですけど、物語を創るということではその頃からやっていたんです。それから小学校5、6年くらいの時にはもう小説を書いていましたね」 ―お父様が話してくれたお話というのはどういったものだったのでしょうか。 夢枕 「『孫悟空』の話を少しと、あとは元気のいい男の子の冒険の話ですね。幽霊とか鬼を退治したりするような話です」 ―夢枕先生にとって「面白い小説」とはどんなものでしょうか。 夢枕 「自分の宇宙観が広がるような話ですよね。今まで自分が宇宙だと思っていたものがひっくり返って別の宇宙として見えてくるような話ですね。抽象的ですけどもね」 ―そういったイメージというのはご自身が執筆されているときでも意識されているのでしょうか。 夢枕 「わりと意識していますね。世界観を何らかの形で出したり、新しい世界観を出したいな、というのはあります。『陰陽師』なんかはそれを意識的にやっています。宇宙をどう解釈するかという時に、宇宙は“呪”でできているという言い方をするんですけど、それもそうですね。 具体的な例を挙げるなら、僕がそれを感じた小説に半村良さんの『妖星伝』があります。この作品は、僕が今まで考えていた宇宙観、これは小説観・物語観といってもいいんですけど、それを“ここまでやるか?”というような感じで広げてくれましたね。『妖星伝』のどの巻かで“それは意思を持った時間であった”という一行で終わるものがあるんですよ。これにはひっくり返りましたね。“時間が意思を持つか!?”っていうね。それは作家の持っている言葉の勢いというものだと思うんですけど、“意思を持った時間”っていう一行にひっくり返ってしまうわけです。言葉のインパクトで、読者の中でその時から何かがガラッと変わるようなものは、小技でも大技でも僕は狙っています」 ―最後に、読者の方々にメッセージをお願いします。 夢枕 「今度のこの本は面白いので、特に最後のサイコダイビングのシーンを是非読んでください!というところですね」 (取材・記事/山田洋介)
サイコ・ダイバーシリーズの著者・夢枕 獏さんのサイン色紙を抽選で1名の方にプレゼント致します。
件名に「夢枕 獏さんのサイン」、本文には名前とインタビューの感想を明記の上、ご応募ください。返信をもって当選メールとさせて頂きます。
(締め切りは2010年11月20日)
【宛先】
news@sinkan.jp昭和二十六年神奈川県小田原市に生まれ、昭和五十二年に「カエルの死」でデビュー。昭和五十九年の『魔獣狩り』に始まるサイコダイバー・シリーズで、超伝奇小説のムーブメントをリードする人気作家として飛躍した。『上弦の月を喰べる獅子』で第十回日本SF大賞、『神々の山嶺』で第十一回柴田錬三郎賞を受賞。
釣りや格闘技、写真、陶芸など趣味は多彩。近年はコミック化された『陰陽師』シリーズが名高く、NHKのマンガ特集番組に準レギュラーで出演するなど、コミックに対する造詣が深いことでも知られる。
公式ホームページ「蓬莱宮」http://www.digiadv.co.jp/baku/と
ブログ「酔魚亭」http://www.yumemakurabaku.com/を人気公開中。