新刊ラジオ第1810回 「陽光桜 非戦の誓いを桜に託した、知られざる偉人の物語」
「知られざる偉人」高岡正明。第二次世界大戦の最中、青年学校の教員として教え子を戦地に送ってきた彼は、戦後、世界の平和を祈り、新種の桜「陽光桜」をつくりだし、世界へと送り続けました。本書は劇場公開の決定した映画「陽光桜」の監督が、その主人公、高岡正明の人物像に迫った一冊です。単純な美談ではない、激動の時代を生きた一人の偉人の生涯が、今ここに明かされます。(提供・集英社)
読む新刊ラジオ 新刊ラジオの内容をテキストでダイジェストにしました
高岡正明は宇宙人!?
本書は2015年に劇場公開が予定されている映画『陽光桜(ようこうざくら)』の監督自身による著書です。
映画の主人公であり、実在の人物である高岡正明(たかおか・まさあき)氏の、生涯や実績、その思想に至るまでを調査した高橋監督が、映画公開に先駆けて記した一冊となっています。
ところで皆さん、高岡正明という人を知っていますか?
本書の中で高橋監督は高岡正明のことを「知られざる偉人」と呼んでいます。
高岡正明氏は何をした人か?というと……
『約三十年かけて「陽光」という新種の桜をつくった人物』です。
1909年愛媛県生まれ、2001年に惜しくも亡くなられました。
明治42年生まれの戦中世代で、激動の時代を生きた人と言えるでしょう。
しかし、高岡正明さんは新種の桜をつくったというだけでなく、様々な面で偉大なことを成し遂げているのです……
が、その記録をほとんど残さず、生前、家族にも話さないままこの世を去ってしまいました。
それゆえに「知られざる偉人」なのです。
しかも、本書の冒頭で、高橋監督は気になる言葉を書いているんです。
それはこんな文章……。
『高岡正明の家族たちは「おじいちゃんは、宇宙人だ」といって彼を敬愛した。』
「宇宙人」!?あんまり「偉人」を形容する言葉ではない気がしますが……
彼は一体どんな人物だったのか!?
それが分かるのが、本書というわけです。
◆著者プロフィール 著者の高橋玄さんは映画監督として映画製作会社グランカフェ・ピクチャーズ代表を務めている方です。 代表作に、的場浩司主演『突破者太陽傳(とっぱものたいようでん」)』や、 乙一原作のベストセラー小説の映画化『GOTH(ゴス)』などがあります。
平和を願ってつくられた陽光桜
では、高岡正明氏は何を成し遂げたのか?
そしてなぜ家族に「宇宙人」とまで呼ばれたのか?
まずは、その生涯を見ていきましょう。
明治42年に生まれ、戦前には青年学校の教員として働いていました。
当時の青年学校は、12歳以上の青少年に軍事教練を施す公立学校でした。
ですが実は、高岡さん自身は非戦論者だったのです。
しかしながら、時代の流れから、「戦争はいかん」と生徒達に教えるわけにもいかず、「お国のために頑張ってこい!生きて帰って来い!」と、生徒達を戦地に送り出す仕事をしていたのです。
ただ、ひと言加えるならば「生きて帰って来い」というのは、「生きて虜囚(りょしゅう)の辱(はずかしめ)を受けず」という行動規範があったので当時としてはスレスレな発言でした。
でも、これは高岡氏の本心だったのでしょう。
ですので、軍国主義との整合性を保つためか、高岡氏は生徒達にこのようにも言ったといいます。「日本は神の国やけん、負けるわけがない」と。
しかし、戦争の結果は皆さんご存知の通り、日本の敗戦。
高岡氏は自らの教え子の多くを、死地に送り込んだ事を深く後悔します。
当時31歳だった高岡氏ですが、持病の脊椎カリエスのため、徴兵はされず、自身が戦場にいくことはありませんでした。
このことも高岡氏の自責の念を一層強くしたことは想像に難くありません。
終戦後、高岡氏は改めて愛媛の農業家の立場に戻ります。
自身の名刺にも「百姓 高岡正明」と書いていた高岡氏ですが、戦後、戦地から引き揚げて来た元教え子たちの生計を確保するために、仕事つくることもしていました。
例えば、栗の栽培や、杉の木やミントの通信販売など。
人手のかかる農業ビジネスのノウハウと仕組みを作り、それを人に任せるという 「商売をしない商売の名人」としての一面も見せています。
また、大変勉強熱心な方でもあったようで、自宅の書斎には、農業をはじめとして、文学、科学、医学、歴史、宗教、美術、哲学、社会学、政治、オカルト、と多岐にわたる分野の本が並んでいたそうです。
そしてこの頃の高岡氏の夢は、教え子の供養と、世界の平和のために、どんな気候でも花を咲かせる、木の病気にも強い、まったく新しい桜、をつくることでした。
そのために、農業と平行して、新種の桜の交配・改良をすすめ、同時に読書などによって知見も広めていったのです。
全ての奇行は人類の幸福のため!
さて、ここまでの情報だと、高岡氏は勤勉で立派な人物に思えるでしょう。
僕も本書の最初の方を読んでいる時は、「なぜ、こんな立派な人が宇宙人なんて呼ばれたんだろう?」と不思議に思っていました。
高岡氏は明治生まれの男なので、家庭を顧みず、仕事や自らのやりたいことに全力を傾けるタイプの人間でした。
それが家族からしてみれば「宇宙人」に見えた、という事でしょうか?
いいえ、違います。
実は高岡氏は、普通の人とはちょっと違う謎の魅力も持ち合わせていたのです。
本書からいくつか「宇宙人」的エピソードを抜粋しましょう。
●病院嫌いの健康マニアだった
脊椎カリエスという持病があった高岡氏ですが、後年、玄米食と乾布摩擦と青汁でこの病を克服します。
こういった経験から、生涯、食を通じた健康に強い関心を持ち続け、時には奇行にも走ります。
「チーズが良い」と本で読めば、世界各国から色々なチーズを取り寄せる。
有機栽培の野菜を粉末にしたものを取り寄せ、自分で試作もして、サプリメント的に服用する。
鉱石を砕いたもの……要するに石の粉を頭皮に塗り込んでマッサージをするなど。
とにかく、健康に関しては自分の体でまず試す!という人だったようです。
●使用する単語のスケールが大きい
実は、あの有名な「伯方の塩」。
その製造業者である伯方塩業の初代社長は、何を隠そう高岡正明氏です。(こっちの方が有名じゃん!!)
これには色々と経緯があるのですが、高岡氏は経営にはほとんどノータッチで、創業するまでのロビー活動をメインに活動されていたそうです。
詳しくは本書でご確認下さい。
で、問題なのが、この伯方塩業の社是。
3つのうちの一つをご紹介します。
一、わたくしたちは、 天地の運行と万物育成の本源に則り 人類の平和と健康樹立の根源である 健康適正塩を探求し、之を製造販売することに努力精進する。
……最初の一行なんなんだ!?
「天地の運行」と「万物育成の本源」なんかものすごい単語が飛び出しましたよね?
実はこれ、高岡氏の晩年まで続く、ある種の思想なのです。
●各所に思想書を送る。
昭和三十年代、高岡氏は自費出版本を全国の政治家や実業家に一方的に送りつけていました。
まずデザインがやばい。
一冊を例にご紹介しますが、表紙は金赤に輝く旭日旗がカラーで印刷され、四隅には桜の花があしらわれていたそうです。
どこの右翼活動団体か!という感じですね。
そして、タイトルがやばい。
先ほどの豪華装丁本のタイトルは
『天光に輝く大日本国建設の為に、日本の政府、国会議員並びに国民諸彦(しょげん)に捧ぐ』
諸彦(しょげん)というのは、古い日本語で男子の美称です。
それで内容もやばい。
第1章『大宇宙の構成と人間』の序文を高橋監督が意訳したものがあるので、そちらをご紹介しましょう。
原典は高岡さんの言い回しが独特すぎて、聞きづらいと思いますので……。
内容はこんな感じ
「人間の世界を超えた天意というものは厳然として存在していて、マクロの大宇宙からミクロの原子核まで、すべては人智を超えた秩序で成り立っているのだ」
スケールがでかい!!
最後に、送り先がやばい。
先ほど、政治家、実業家と言いましたが、その中には歴代の総理大臣や天皇陛下も含まれていました。
もちろん、内閣官房や宮内庁を通しての形になるのですが、こういった冊子以外にも、直接総理官邸や宮内庁に電話や電報を送ったりしていたので、公安の人が高岡家に来ることもあったそうです。
(問題視はされなかったようですが)
断っておきますが、高岡氏は特定の宗教を強く信仰していたわけでもなく、自ら宗教を起こそうとしていたわけでもありません。
先ほどの、「天地の運行」とか「天意」といった考えは、高岡氏が自ら経験し、見聞し、考え抜いた末に、「もう、そうとしか言いようが無い」と至った境地だったようです。
そして、こういった独特の思想と言い回しは、対人交渉術にも如何なく発揮され、数時間も一方的に喋り続けるため、感化されたり、うんざりする人もいたとか……。
ですが、この高岡氏の思想。
最終的に目指すところは「人類の平和」「全人類の幸福」でした。
そして、こういった思想と平行して、新種の桜「陽光」の作出に成功し、これを無償で世界各国に配り続けたそうです。
桜を見て、世界が平和になって欲しい。
そう信ずる高岡氏の行動は、まさに「偉人」という形容詞にふさわしいものでした。
この辺りの詳しいエピソードは是非本書でお読み下さい。
常に「世のため」「人のため」に、行動する高岡氏のパワフルなエピソードが本書にはたくさんあります。
ではそろそろまとめに入りましょう。
本書は「知られざる偉人」高岡正明を知るのに、最適な一冊です。
この本から何を学ぶかは、人によって違いがあるでしょう。
ですが、高岡正明という人物を知ることにより、感ずるところは大きいと思います。
著者である高橋監督によれば、この話は美談ではありません。
誤解を恐れずに言えば高岡正明とは「戦争に壊された人物」だったとも言及しています。
これには、本書を読み終えた僕も同意します。
あの戦争がなければ、高岡氏はこれほどまでに世界平和を希求し、各種の行動も起こさなかったかもしれません。
ですが、確かに美談ではないものの、高岡氏の残した業績と「天意」という言葉は、これまで僕が読んできた成功本・社長本と、深いところで通じるものが見え隠れします。
世界の本質、人生の本質を、少しでも知りたいと思う方は、戦後70年のこの夏、本書を読書リストに加えて欲しいと思います。
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