新刊ラジオ第1758回 「田舎の無名高校から東大、京大にバンバン合格した話―西大和学園の奇跡」
教室から机を放り投げる生徒、放課後には他校の生徒とケンカ、教師の教育指導も考え方もバラバラ。学校は荒れていくばかり。そんな中、「日本一の進学校」を目指し、教師たちが立ち上がっていきます。開校からわずか数年で全国屈指のトップ校へ。開成・灘高校に次ぎ、東京大学・京都大学合格者全国ランキングでは3位に。田舎の新設私立高校が進学校へ変貌を遂げたその秘密と教育法を熱く綴っています。
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概要
こんにちは、ブックナビゲーターの矢島雅弘です。
みなさんは、西大和学園という学校をご存知ですか?
関西方面の方には有名な進学校なのですが、その他の地域では、まだあまり知られていない……というのが現実のようです。
その西大和学園、実は東大・京大への合格者数が開成・灘に迫る進学校なんです。
2013年の関西圏における、東京大学・京都大学合格者ランキングでは、1位が兵庫県にある灘高校。そして、2位が今回紹介する西大和学園。
全国ランキングでも、1位に開成高校が入り、2位が灘、西大和学園は全国でも3位です。これは凄いことですよ。
いまでは、開成・灘に迫る勢いで進学率を伸ばしている西大和学園ですが、開校当初は、奈良の田舎 にある全くの無名校。
大半が公立高校の教員採用試験に落ちた教師と、公立高校の受験に失敗した生徒たちの集まりでした。
そもそも奈良県は長年にわたって、全国トップレベルの通塾率なのだそうです。
また、2014年の入試結果では、各都道府県の高校卒業者に占める東大・京大の現役合格者の割合において、奈良県が1位。その高い進学実績を誇っています。
関西圏で進学校と呼ばれているほとんどの学校は創立50年、なかには100年を超える名門校も少なくないそうです。
そのなかで、昭和61年に創立した西大和学園は、とても“若い学校”です。
まだまだ全国的に知名度がないのは、あまりにも急成長を遂げたからだと、西大和学園会長で、今回の著者、田野瀬良太郎(たのせ・りょうたろう)さんは言っています。
この急成長ぶりは、「異例中の異例」「奇跡」とも言われ、
なかには、
「進学塾から優秀な生徒を強引な方法で迎え入れたのではないか」
「名門進学校から、受験のスペシャリストのような教員を引き抜いたのではないか」
「田野瀬は政治家だから、一般の庶民には知り得ない“奥の手”を使って、数字の操作をしたのだろう」
とまで言われたこともあったといいます。
そこまで言われている西大和学園ですが、開校した当初は、学校が本当に荒れていたというから驚きです。
学校の中だけでなく、学校の外でも生徒たちは問題行動を起こしてしまう・・、そんな状況でした。
授業中に窓から机を放り出す生徒、トイレットペーパーを廊下で撒き散らす生徒、窓ガラスを割る生徒、下校時には通学路の工事現場で塗りたてのコンクリートに足跡を付けていたずらをする生徒、駅で他校の生徒とケンカをする生徒までいました。
教員から生徒たちの問題行動の報告を受けるたびに、田野瀬さんは、「こんなはずではなかった……」と思ったそうです。
◆著者プロフィール 著者の田野瀬さんは、昭和18年奈良県五條市出身。名古屋工業大学卒業。 大学時代に1年間アルバイトをしながら、ロシア、ヨーロッパ、中近東、東南アジアなど33か国を歴訪。これを機に政治の道を志し、昭和48年五條市市議会議員に当選。 その後、奈良県議会議員、衆議院議員に当選し、自治政務次官、財務副次官、自民党文学科学部会長、自民党三役、総務会長を務めます。 議員活動をはじめてまもなく、教育は政治上の最重要課題であると痛感し、 昭和56年になかよし保育園を開園。その後、西大和学園高等学校・中学校、 西大和学園カリフォルニア校、白鳳女子短期大学を設立。平成26年に大和大学を開学し、学長に就任しました。
教師の意識改革
西大和学園の1期生に志望動機を聞くと、
「奈良の公立に落ちて、ここしか入れなかったから」
「制服が可愛かったから」
「新設校だから校舎も新しくて、居心地がよさそうだから」
「新設校で先輩がいないから、自由に、好き勝手にできそうだから」
というものでした。
勉強が決してできないわけではないけれど、向上心に乏しく、要領もあまりよくない生徒がいる一方で、劣等生ではないものの、それなりにやんちゃもしたい生徒もいる学校でした。
教師もまた威勢のよさはあったものの、緻密なプロセスがなく、それぞれがやりたいことをやっていたそうです。
生徒への教育も指導もバラバラ。
「部活を頑張ったら推薦で大学に行けるぞ」という教師。
「部活なんか行ってないで勉強しろ。一生懸命勉強しなければ、大学に合格できないぞ」という教師。
これでは生徒も混乱してしまいます。
開校数カ月で学校はどんどん荒れて行きました。
悩む田野瀬さん。
そこで考えたのが、「何もかもできればいいというものではない。
やはり、高校にはひとつの路線が必要」と、教師たちに意見を求めました。
何回も職員会議を重ね、全国の私学を回り、経験豊富な他校の先生方の意見を聞き、助言をもらい、ひとつの結果に結びつきました。
「西大和学園は、今後、進学校としての道を極めていく」というもの。
しかし、その考えに賛同した教師は、たったの2名。
それでも田野瀬さんは校長、教頭をはじめ、反対派の教師たちと何度も話し合いをして理解をしてもらえるよう必死に訴えます。
反対多数の中、進学校への取り組みは進んでいきました。
賛成をした数学担当の教師は、「数学での試みは、ひとつは早くしゃべること。
もうひとつは深い内容を説明すること」といい、もうひとりの教師は、「とにかく熱く。松岡修造を地で行く方式」を取りました。
最初は戸惑っていた生徒たちも徐々に気持ちに変化が現れてきました。
早口の授業も最初はチンプンカンプンだったものの、集中して聞き、授業のス ピードに生徒の思考力のスピードがついてきたといいます。
熱血教師の授業も、「あの先生必死やし」「これだけ一生懸命やってくれるんやから」と、生徒側も努力するようになったそうです。
このように、生徒の意識が変わっても教師の意識改革は一向にすすみませんでした。
そこで田野瀬さんは、色々な策を練って反対派教師の気持ちを和らげていくのです。
なかでも、「放課後は部活に力を入れたい」と言い続けた体育教師たちの抵抗は激しかったといます。話し合いにも欠席、職員室にもあまりこなくなり、出勤するなり、授業を終えるなり、彼らは体育教官室に向かってしまうほどでした。
田野瀬さんは体育教師と、何日も、何時間も、話し合いをしました。
西大和学園のサッカー部はインターハイ初出場を狙えるほどの成績で、体育教師も今後に大きな期待と手ごたえを感じていました。
田野瀬さんは、とにかくこのままではいけないと、体育教師たちを部活のあとに呼び出し、明け方まで自分の気持ちを全て伝えました。
その数週間後、サッカー部員を集めて体育教師が言った言葉は、
「大事な話だから、よく聞いてくれ。今後、部活は週3回になるからな。それから、部活に出られるのは2年生の3月までだからな」
教師は声をふるわせていました。
生徒たちは教師の泣き顔を見ないようにずっと下を向いていたといいます。
最後まで抵抗していた体育教師も進学校路線へと傾斜していきました。
西大和学園の試み
偏差値50前後の西大和学園が、進学率トップ高校になるには、数多くの試みがありました。
例えば、授業が始まるチャイム。
「キーンコーンカーンコーン」ではノンビリしすぎて気持ちがだれてしまう。
まず始業1分前にびっくりするような音のブザーを鳴らし、その後、ボクシングのゴングのようにカーンと。
このようにしたのは、気持ちを高めるたけでなく、時間のロスを無くしたり、集中力を付けることにもつながったそうです。
また、登校拒否になってしまった生徒には、自身が登校拒否になった経験をもつ教師の意見をもとに対応をしました。
親に連絡するなんて、もっての他、「とにかく、まわりが騒がない」「何故来ないのか、としつこく聞かない」。
そして連れて来る場合は前ぶれなく自宅へ行って、しゃべらず、粛々と、機械的に登校の準備をするのがいいそうです。
Aくんが登校拒否になったときも、先生か突然自宅に行き、両親も留守で鍵かかかっていたので、雨どいを伝って2階のベランダの窓を開けて訪問に成功し、スヤスヤ寝ているAくんに、「Aくん、起きなさい。学校へ行くから支度をしなさい」と、Aくんが抵抗する間も与えず学校に連れ出したそうです。
Aくん、翌日から普通に毎日登校しはじめたそうです。
それだけではなく、そのAくん、驚くことに西大和学園の記念すべき、東大合格者第一号になったそうです。
その他にも、
始業前、朝7時半から始まる0時間目、7時間目終わりの泊まり込み合宿といった、まるで”体育会系”部活のような対策を徹底。
「受験は団体戦だ!」の掛け声の下全教員、全クラスが一丸となって合格を目指しました。
新しい教員も入れました、それも全てが新卒者。
進学校にシフトするならば、質のよい教師をヘッドハンティングするのが早いように思われますが、あえて新卒者。
ここにも田野瀬さん独自の考えがありました。
西大和学園をトップの進学校にするための、たくさんの試みと、今までには考えられなかったようなチャレンジの数々が紹介されています。
そして、その試みとチャレンジは、今現在も次々と行われ、進化し続けています。
受験シーズンがやってくる季節。
現役の受験生、受験生をお持ちの親御さんにも是非読んで欲しい一冊です。
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