目に無頓着な日本人が知らない「近視」の本当のリスクとは?
近視は病気です

近視は病気です

著者:窪田 良
出版:東洋経済新報社
価格:1,650円(税込)

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本書の解説

日本人の約半分ほどは近視だとされている。
子供の頃から眼鏡をかけたりコンタクトレンズをつけていたという人は少なくないはず。そうでない人も同級生にそういう人がいたはずだ。だから「近視で視力が悪い」ということは私たちにとって身近なことで、それが病気だとはあまり思わない。

ただ、「近視はれっきとした病気」だとする意見もある。NASAとの共同研究を指揮し、近視撲滅を目指すクボタグラスの発明者であり、日米で30年以上眼科研究を続ける眼科医、窪田良さんは著書『近視は病気です』(東洋経済新報社刊)で、近視が将来的にさまざまな眼病のリスクを高める点を指摘。それゆえに近視は病気だとしている。

「近視になったら眼鏡かコンタクトをかければいい」はなぜまちがっているのか

そもそも「近視」とは一体何なのだろうか。「近くは見えて、遠くは見にくい」ということは何となくわかっていても、目の中で何が起きているかは知らない、という人は多いかもしれない。

近視には「軸性近視」と「屈曲性近視」の2種類がある。そして近視の9割以上は軸性近視なのだという。

この軸性近視は、目の表面の「角膜」から目の一番奥にある「網膜」までの長さが伸びてしまうことによる近視である。つまり、近くのものを見すぎた結果、眼球の奥行きが後ろに伸びてしまうわけだ。この伸び方が大きければ大きいほど、強い近視になり、近くのものは見えるが遠くを見ようとしてもうまくピントが合わずにぼやけて見えてしまう。

2022年に文部科学省が全国の小中学生を対象に行った調査では、小学校高学年ですでに「眼軸(目の奥行きの長さ)」が大人並みの長さになっていることが明らかになった。それを裏付けるように、裸眼視力が1.0に満たない小学生は37.9%、中学生は61.2%、高校生は71.6%と、1979年の小学生17.9%、中学生35.2%、高校生53.0%から大幅に増えている。子どもの「近視化」はどんどん進んでいるのである。

そして、人が近視になるのは、まさしくこの年代。体が成長する時期は、眼球も成長する。この時期は、眼球のピント調節機能もまだ不安定なため、スマートフォンを見たり、本を読んだりなど、近くにピントを合わせる行為、つまり近視になりやすい行為の影響を受けやすいのだ。

「近視になったら眼鏡をかけるなり、コンタクトレンズを使うなりすればいい」と考えるかもしれない。しかし、本書によると、近視になることで将来的に白内障や緑内障、網膜剥離、近視性黄斑変性症といった、失明につながる病気になる確率を高めてしまうという。近視は、多くの人が考えているよりも重く受け止められるべきものなのだ。少なくとも親が我が子に対して「目が悪くなったら眼鏡かコンタクトをつけさせればいい」と考えるのは軽率だ。近視にさせないように手を尽すべきだし、それは可能である。

本書は軽く考えられがちな近視に対して注意喚起をするとともに、近視になるメカニズムや目の仕組み、目にまつわるさまざまな疑問への眼科医の見地からの答えを解説していく。人生の充実度に大きく関わる目の健康を守るために、必読の一冊だ。

インタビュー

■眼科医が警鐘!近視を甘く見るべきではない理由

『近視は病気です』は軽視されがちな近視について注意喚起をする一冊です。本書で指摘されているように、世界的に近視になる人は増えていて、特に若年層で近視が広がっているにもかかわらず、日本ではあまり重く受け止められていません。

窪田: 近視は予防や治療が可能な病気なんです。近視になることで、網膜剥離や緑内障、白内障といった病気になるリスクが上がるということがあまり知られていないんですよね。

確かにそうです。「近視になったら眼鏡かコンタクトをつければいい」というくらいの受け止められ方ですよね。

窪田: 本でも書いていますが、「近視は万病のもと」です。高血圧や高脂血症などの脂質異常は特に痛くもかゆくもないのですが、そのままにしておくと脳梗塞や心筋梗塞といった病気になりやすくなります。近視もそれと同じなんです。

近視に対してのこうした考え方は日本特有のものなのでしょうか?

窪田: 台湾、中国、シンガポールといった国々は近視に対して問題意識を強く持っています。これらの国は、「近視は病気」という認識を持っていると言えます。
あとはオーストラリアやアメリカもそうですね。

これらの国は、たとえば「子どもの視力が落ちて近視になった」という時、親はどんなことをするのでしょうか?

窪田: 今ある治療法で一番有名なアトロピンの点眼薬やオルソケラトロジーを使った治療を受けさせるでしょうね。

ただ、これらの薬は台湾や中国、シンガポールでは認可されているのですが、日本ではまだ認可されていません。先ほどこれらの国では近視への問題意識が強いというお話をしましたが、逆にいえばこうした治療薬が出てきたことで近視が「病気」として認識されるようになったとも言えます。日本でも今後治療薬や治療法が出てきたら、近視への認識も変わっていくのではないかと思いますね。

本書を通じて伝えたいことはどんなことですか?

窪田: 2050年には世界人口の50%が近視になると言われていて、WHOも警鐘を鳴らしています。特に近視になる人が多い東アジアを見ると、台湾や中国では近視を撲滅するための政府の取り組みが始まっているのに、日本ではそういった取り組みが活発ではありません。こういったことをみなさんに知っていただきたいです。

たとえば、台湾や中国、シンガポールでは、近視の予防の一環として小学生に対して2時間外にいる時間を作るように呼び掛けています。日本で同じことができるかどうかは別として、政府が検討するくらいにはなってほしいです。

また、近視についての世界的な認識を知ることで、これらの国でやっているような対策を、子育てをする親が自助努力として行うこともできるわけです。昔から「暗いところで本を読んだら目が悪くなる」とか「近くでテレビを見たら目に悪い」といったことがある種の経験則として言われていましたが、「屋外で子どもに遠くを見させる」というのは科学的根拠のある近視対策だと今ではわかっているので。

近視はほとんどが大人になる前になるということで、子どもへの働きかけが重要ということですね。

窪田: そうです。赤ちゃんが成長していくにしたがって、眼球も大きくなっていくのですが、その過程に狂いが生じることで近視になってしまう。一応、30代くらいまではここまでお話したようなはたらきかけに近視予防効果があるだろうとされています。

近視ではなく遠視になる子どももいますが、これは何が原因なのでしょうか?

窪田: 正視になるには、体の成長過程で角膜と水晶体と網膜の距離がちょうどいい比率で成長していくことが必要で、どれがずれても目のピントが合わなくなってしまいます。近視の場合は、眼軸が伸びすぎて眼球が奥に向かって縦長になってしまった状態なのですが、遠視は逆に眼軸が成長できない状態だといえます。

遠視になる原因については今もまだはっきりとはわかっていません。ただ遠視は近視のように最近になって増えているわけではないので、生活環境の変化が原因ではないのは確かです。

私には年子の弟がいるのですが、弟の方は強い近視で、私はかなり視力がいいです。同じような境遇で育ったのに、近視になる人とならない人がいる理由についてお考えをお聞かせいただければと思います。

窪田: 近視になるのは環境要因が大きいことはわかっているのですが、近視の原因となる遺伝子が400種類以上あると考えられているということからいっても、遺伝的な影響を受ける病気でもあります。

「太りやすい遺伝子」があるように、同じような環境にいても遺伝子的な理由で近視になりやすい人となりにくい人がいるんです。兄弟であっても遺伝的な形質が違うと、近視になる人とならない人が出てしまうと言われています。

■我が子を近視にしないために親ができること

本書では近視は、将来的に様々な目の病気のリスクを高めるとされています。ただ、どの程度リスクがあがってしまうのでしょうか?緑内障、白内障など、それぞれの病気について、近視であることでどのくらいリスクが上がるのかがわかっているようでしたら教えていただきたいです。

窪田: これはケースバイケースですね。近視の程度など様々な要素が入ってきますから、研究ごとに数倍から数十倍とかなり幅の広い数値が出ているのが実際です。今回の本では日本眼科学会のウェブサイトに載っている数値を使っています。

白内障は、今は治療可能な病気になっていますが、緑内障は怖いですね。

窪田: そうですね。緑内障と黄斑変性は失明につながるので。近視の度合が高いほどこれらの病気になりやすくなるのですが、子どもの時点では将来どの程度の近視になるかはわらないじゃないですか。だとしたら、今のうちから少しでも近視を防いだり、近視の度合いを軽減する取り組みをした方がいい。

その取り組みについて、今は「外で遠くを見る」というのが近視の防止にとてもいいことがわかっています。室内で過ごす時間が長くても、そのうちの2時間を外で過ごすだけで、将来近視になるリスクを減らせるということがわかっているので、それは積極的にやった方がいいと思います。

「近視の人は老眼にならない」という俗説は本当ですか?

窪田: 近視と老眼はまったく関係ありません。老眼は年齢とともに眼球の水晶体が硬くなっていくことで起こります。加齢性の変化ですから、近視の方でも遠視の方でも老眼にはなります。ただ、自覚しにくさでいうと、近視の方のほうが老眼を自覚しにくいというのは言えるかもしれません。

多くの場合、近視は未成年のうちになるものです。大人になっても近視になっていなければ、極端に目に悪いことをしない限り近視になる心配はあまりないということでしょうか?

窪田: ほとんどありません。多くの場合、近視は小学校低学年くらいからあらわれるものですが、最近では大学生になってからでも近視になる人がいます。

親としては、わが子が近視になるのを防ぐためにどのようなことをすればいいのでしょうか?

窪田: これはもう「外で遊ばせる」に尽きます。少しでも長い時間外にいさせて遠くを見せるということを毎日やり続けられるか、子どもに外で遊ぶ習慣をつけられるかということが大切です。これは炎天下にいる必要があるわけではありません、外であれば日陰から遠くを見ているのでも十分な効果があると考えられています。

「スマホを触らせない」といったことではないんですね。

窪田: たとえスマホを持っていなくても、家の中にずっといる生活を続けていると結果的に近くのものを見ることが増えて近視になりやすいんです。だから、近視の予防には外で遠くを見ることが必要です。ただ、何もせずにぼんやり遠くを見続けるのは大変ですから、子ども対してということで言うと、犬の散歩を手伝ってもらったり、何か屋外スポーツをやらせるといったことが効果的なのではないかと思います。

最後に、本書の読者の方々にメッセージをお願いいたします。

窪田: お子さんがいる方は、ぜひお子さんに外で遊ぶことを推奨していただくのが私の願いです。一人だけ外にいるのは難しいでしょうから、周りのお子さんを巻き込んで一緒に外で遊ぶと継続しやすいのではないでしょうか。自分が近視だから子どもも近視になるのは仕方ないと思わないでいただきたいです。

書籍情報

目次

  1. はじめに
  2. 子どもの目が危ない
  3. 目薬やサプリの種類は豊富だけれど
  4. 世界は目への関心を高めている
  5. 第1章
    近視は病気です--「見えづらい」では済まされない
  6. 視力1.0未満の子どもが過去最多に
  7. 2050年には世界人口の約半分が近視になる
  8. 近視は軽視されてきた
  9. 人間は目が9割?
  10. 見えることは、光を感じること
  11. 目は脳の一部です
  12. 目医者、なんとかも医者のうち?
  13. 人間はカラーで見えているが……
  14. 目が良くなければいい関係も築けない
  15. 目は遠くを見るようにできている
  16. 近視で目の奥行が伸びる
  17. 眼軸が短すぎるのが「遠視」
  18. 20歳くらいまでが勝負だが、大人でも安心できない
  19. 子どもの眼軸が長くなっている
  20. 屋内での近見作業はとりわけ目に良くない
  21. アジアの受験熱が影響している?
  22. 近視は遺伝より環境
  23. 近視は病気です
  24. column できるだけ目の手術はすすめない理由
  25. “精密臓器”にメスを入れる怖さ
  26. 「風邪に抗生物質」は世界では異端
  27. 「疲れたら点滴」も考えもの
  28. 第2章
    子どものスマホリスク!?--日本人は「目」を知らなすぎる
  29. 近視は「失明のリスク」につながる
  30. 近視で眼圧にもろくなる
  31. 視力障害者は想像以上に多い
  32. メガネをかけても近視は進む
  33. メガネをかけても近視が進む理由
  34. 「度数」を知らない日本人
  35. 「視力」だけで判断してはいけない
  36. 「スマホ育児」は目を悪くする?
  37. 目への長期的な影響がわかるのはこれから
  38. 「遠ざけておく」のが賢明
  39. 米国人は子どもにスマホを見せない?
  40. スマホの画面は暗くしたほうがいいのか
  41. 「暗いところで読書」は目に良くない?
  42. 近視対策で後れを取る日本
  43. column 「子どもにスマホを持たせない」という選択  
  44. 周りを気にすることは恥ずかしいこと
  45. 反抗期があるのは日本だけ?
  46. 第3章
    近視は「治療」する時代へ--「外遊び」に効果がある!?
  47. 「2時間の屋外活動」は最良の近視予防
  48. 外遊びは一石二鳥
  49. 日陰で十分
  50. 手術しない近視矯正法「オルソケラトロジー」
  51. 目に注すだけでいい「アトロピン点眼薬」
  52. 目にいい赤や紫の光
  53. 最先端の近視研究はアジア発
  54. 「目の外遊び」ができるメガネ
  55. 光で目を動かす
  56. ARで映像を目に映す
  57. 驚くほど違和感がない
  58. 1時間もすると変化が表れる
  59. 長期的な効果も確認
  60. 大人への効果にも期待
  61. 「クボタグラス」を1日1~2時間かけるだけで
  62. 香港や上海からも買いに来ている
  63. “異端”だからこそ
  64. 日本も少しずつ動き出した
  65. 目の健康寿命にもっと関心を 
  66. column 「原始時代」に近づくことが目にはいい
  67. 昔のライフスタイルは理にかなっていた
  68. 食事制限すると調子が良くなる
  69. 第4章
    意外に知らない「目の病気」--近視で発症リスクが増える
  70. 加齢で水晶体が濁っていく「白内障」
  71. 白内障に薬はない
  72. 白内障は手術で治すことができる
  73. 白内障手術は「簡単」ではない
  74. 白内障手術はいつ受けたほうがいいか
  75. 単焦点レンズと多焦点レンズ、どちらがいい?
  76. どんどん進化する眼内レンズ
  77. 視野が欠けていく「緑内障」
  78. 衝撃を受けなくても起こる「網膜剥離」
  79. 「ゆでガエル」の怖さ
  80. 50代は網膜剥離「魔の年代」
  81. 超高齢社会で増える「加齢黄斑変性」
  82. 網膜の中心が見えなくなる
  83. 目の不調から糖尿病が見つかることも
  84. 遺伝性の網膜疾患「網膜色素変性症」
  85. 寄付で研究が大きく進むこともある
  86. 「ものもらい」はなぜできるのか
  87. 目には「がん」はほとんどない
  88. 年に一度は、眼科検診へ
  89. column 日本から新薬が生まれにくくなったのはなぜか
  90. 新薬か、高額な医療費か
  91. 日系企業の研究開発費が細っている
  92. “普通の国”になっただけ?
  93. 第5章
    日本の常識は世界の非常識?--目薬、サプリから眼筋ほぐしまで
  94. 「目に良いサプリ」は効果がある?
  95. 「疲れ目」は肩こりの原因になる?
  96. 「乾き目」は病気なのか
  97. 「しみ込む点眼薬」ができる?
  98. 「目を温める」のは、意味がある?
  99. 「目薬」の効果の多くは感覚的なものにすぎない
  100. 「眼球洗浄」はしたほうがいい?
  101. 「老眼鏡」「ルーペ」はかけたほうがいい?
  102. 「目のマッサージ」「眼筋ほぐし」は効果的?
  103. 目の筋肉を鍛えても意味はない
  104. 「ブルーライトカットメガネ」はかけたほうがいい?
  105. column 「カラコン」「まつエク」は問題ない?
  106. カラコンはあくまでファッション製品
  107. 「アルカリ性の洗剤」が目に入ると失明する?
  108. 第6章
    本当に「目に良い」選択とは--コンタクト、ICLは大丈夫?
  109. メガネとコンタクトレンズ、どっちがいい?
  110. コンタクトレンズは「清潔さ」が何より大事
  111. 子どものメガネの度数は、ゆるめにしてはいけない
  112. 「レーシック」は、危なくないの?
  113. レーシックの技術開発物語
  114. レーシックにもリスクはある
  115. 眼内にレンズを入れる「ICL」
  116. ICLの超長期の安全性証明はずっと先
  117. 目や頭への衝撃に注意する
  118. サングラスで目を守る
  119. 涙という特別な“スープ”
  120. column 「目」を見る日本人、「口」を見る欧米人
  121. マスクに関する考え方の大きな違い
  122. 目の表情ではなく色を見ている
  123. おわりに
  124. 本当の優しさとは?
  125. いかに厳しいことを言ってあげられるか

プロフィール

窪田 良
窪田 良

窪田 良

1966年生まれ。慶應義塾大学医学部卒業、慶應義塾大学医学部客員教授、米NASA HRP研究代表者、米シンクタンクNBR理事などを歴任。虎の門病院勤務を経て米シアトルのワシントン大学助教授に就任。2002年創薬ベンチャー・アキュセラを創業。米国企業として初の東証マザーズ上場を果たす。2016年窪田製薬ホールディングスを設立し、本社を日本に移転。アキュセラを完全子会社とし、東証マザーズに再上場。独自の視覚サイクルモジュレーション技術に基づく「エミクススタト塩酸塩」においてスターガルト病および糖尿病網膜症への適応を目指し、米FDAからの研究費を獲得し研究開発を進めているほか、在宅・遠隔医療分野では、NASAと共同で、超小型OCTなどクラウドを使った在宅医療モニタリングデバイスやウェアラブル近視デバイスの研究開発を行っている。

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